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ビジネスのプロフェッショナルが次世代エグゼクティブをコーチする
第101回:沈黙に潜む言葉

金澤 信 金澤 信

10年以上前になりますが、ゴルフキャスターの戸張捷氏の講演でのお話。
帝王ジャック・ニクラウスが最後の全英オープンに出場した時に、
セント・アンドリュース・オールドコースの海を臨むホールで、
ティーグラウンドから崖下に広がる海をじっと見ているニクラウスに、
カメラが遠くから少しずつ寄っていきました。
その時、日本のアナウンサーが「ニクラウスが海を見ています」とコメント。
解説者の戸張氏は「しゃべるな!」という意味で、
机の下でアナウンサーの足を蹴ったそうです。

私もそのシーンを覚えていますが、確かに言葉なんか何もいりませんでした。
沈黙の中で世界中のゴルフファンが、
そんなニクラウスの姿に感動を覚えたと思います。

更に18番ホールでニクラウスが最後のパットを沈めたシーンから、
今度はカメラが引いて、ひとつ後ろの組のトム・ワトソンが
ニクラウスに拍手を送っているシーンを映し出しました。 
ここではさすがにアナウンサーも無言でいましたが、
ライバルの最後のプレーを後ろから讃えるトム・ワトソンの姿は、
言葉なんて何もなくても、
いや、言葉がないからこそ届けることができた感動的なシーンでした。

一方で、先日のサッカーワールドカップをテレビで見ていた時、
実況アナウンサーが、最初から最後まで途切れることなくしゃべり続けていることに、
大変違和感を覚えました。
まるでしゃべり続けることが自らの能力の証が如くしゃべり続け、
試合と直接関係のないエピソードや選手に関する自分の知識を
披露し続けていました。

特に、緊張感の漂うセットプレーの時などは静かにしていてほしかったのですが、
アナウンサーの余計なおしゃべりにより、興ざめをさせられてしまいました。

沈黙というのは、しばしば言葉よりもはるかに雄弁な時があります。
沈黙は「無」ではありません。
沈黙の中で、人は考え、感性を磨いていきます。

私がコーチングで関わっているビジネスの現場でも、
上司の問いかけに対して部下が必死になって考えている時に、
流れる沈黙に耐えられなくなった上司が余計な発言をしてしまい、
折角の部下の深い思考を台無しにしてしまうことが多く見られます。
研修でも多くの人が、それをしてしまっていると言っています。

最近、研修等で1on1ミーティングのスキルについて話す機会が増えていますが、
部下が考えている時には上司はじっと待つという事を、
繰り返しお伝えするようにしています。

しかし、実際にやってもらうと、これがなかなか難しくうまくできません。
10秒間沈黙するだけでも多くの人は耐えられなくなり、つい口を開いてしまいます。
1on1ミーティングのロールプレイでも、
部下役の方がまだ最初の質問に答えてもいないのに、
新たな質問を投げかけてしまいます。

質問された部下(役)は、その時点で二つの質問を抱えることになり、
どちらに答えたらいいかわからなくなってしまいます。
そこで更に考えこんでしまうと、今度は三つ目の質問を投げかけられます。
上司(役)としては親心として答えやすいようにと投げかけた質問が、
折角芽生えた部下の成長の芽を摘んでしまうことになるのです。

部下に気づきを与える良い質問を投げかけた時こそ、
部下は沈黙の中で深い思考を巡らせていきます。
そういう時には、上司はじっと我慢をして沈黙を守らなければいけません。 

つい先日も、コーチングの最中に、私の質問に対しクライアントが
なんと10分以上沈黙をして考えを巡らせていました。
その間私は一言も発しません。会議室の中に10分を超す沈黙の時間が流れました。
その沈黙の後にポツリ、ポツリと話し始めた中から、
この方の真の課題を一緒に発見することができました。

他のケースでは、やはりこちらの質問に対しクライアントが7〜8分沈黙し、
そこから、自分がやめるべき行動とこれからやるべき行動が明確になり、
部署内の改革に取り組み、大きな成果を上げることができました。
この方からは、今春、さらにワンランク昇格をしたという報告を頂きました。
これは、沈黙が生み出した成果であり、コーチとして本当に嬉しい報告でした。

コーチングで質問を投げかけると、クライアントは、特に地位が高い方ほど、
そのプライドからかすぐに答えなければいけないと思い、深く考えることなく
ヒューリスティックな答え(質問に対して論理的ではなく直感的な概ねの答え)を
する傾向があります。
そのため、私はいつも「すぐに答えようとしなくていいですよ。
じっくり考えることにこそ、意味があるんですよ。」とお伝えしています。

深い思考を得るには、沈黙の時間が不可欠です。

街に出るとあらゆる音が溢れています。
駅や電車でのアナウンス、店頭での商品案内、
新幹線では車掌や車内販売の方の名前まで紹介され、
多くの人がスマホで常に音楽を聴いています。
また、歩きながら電話で話をし、始終スマホで情報収集しています。
そんな溢れる音や情報に囲まれている中で、
我々は、沈黙することを過度に怖がってしまっているのではないでしょうか?

9月に入り暑い夏が去り、長い夜を迎える季節になってきました。
たまにはスマホのイヤホンを外し、自らへの問いかけと、
それに対する深い思考を巡らせる沈黙の時間を持ってみてはいかがでしょうか。

中国のある史書の中に
「無形は物の大礎なり。無音は音の大礎なり」という言葉があります。
沈黙に潜む言葉との対話から、きっともう一人の自分が見つかると思います。

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