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第14回:人に関する経営課題 (2)―「ブータンで見たサーバント・リーダーシップ」―

久野 正人 久野 正人

<「龍の国」の話>
 前回(昨年8月)の私のコラムでは、「人に関する経営課題 (1)」として、「己を知るがすべての出発点」の話をしました。
 今回は、一昨年11月にワンチュク国王夫妻が来日して、一躍有名になったブータン王国(雷龍の国と呼ばれる)の「龍の話」を中心にリーダーシップについての視点を考えることにします。


ブータンの国旗

ワンチュク国王が被災地の福島県で語ったといわれている「龍の話」は、メディアでも取り上げられたので知っている人も多いと思います。
 国王は小学生に尋ねました。
 「皆さんは龍をみたことがありますか?」と。
 小学生が龍の姿を想像しながら答えに戸惑っていると国王は「私は龍を見たことがあります」と明言しました。

 さらに、国王曰く、「龍というのは人の人格をいいます。
  龍は人間一人一人の心の中に住んでいますよ。龍は歳をとり、いろいろな経験と試練を乗り越えていくにつれて大きく強くなります。
  私たち人間とってとても大事なことは、その龍を如何にコントロールして立派に育てていくことです」と。

 以下、ブータン王国が提唱する国民総幸福Gross National Happinessの考え方と人に関する経営課題の接点を探ってみたいと考えています。

 昨年11月、同友クラブ(経済同友会会員および会員経験者による研鑽・交流の会)主催によるブータン・ネパール視察旅行に参加してきました。
 参加者は総勢32名。

 ブータンは、国王夫妻の来日を機に、多くの日本人にとって「知らない国」から「誰もが知ってる国」に180度変わったのではないでしょうか?

 事実、私にとっても、「興味のない国」から「一番行ってみたい国」となり、「幸せな国の原点探し」が今回の参加の目的でした。

 今回の視察では、ジグミィ・Y・ティンレ首相(写真上)とHome & Cultural Affairs省ミンジュル・ドルジィ大臣(写真下)と別個に会談する機会に恵まれました。

 会談は各1時間行われ、ブータンの国家政策と国民総幸福Gross National Happinessについて直接お伺いすることができました。


ジグミィ・Y・ティンレ首相@首相官邸(久野撮影)


ミンジュル・ドルジィ大臣@王宮(久野撮影)

首相と大臣からお聞きした
 ブータンのビジョン4つの柱とGNHの9つの尺度です。

 国家がしっかりとしたビジョンを持ち、それを国民と共有し、その現状をGNHという尺度でモニターして、国家の成長と国民の幸せをバランスさせるという文化と統治の絶妙な政策はアッパレです。

 GNHの調査票の質問は700問にのぼり、3年に一度、約8000人に対して行われます。
 国としてGNHの指標を高めていくことが目標ですが、国民が質問に答えることで自分自身の「振り返り」の機会とし、自分を客観的に見つめ直し、「自分を知る」ことが出来るようになるそうです(企業のマネジメント視点からも見習うことができます)。
 仏教の教えを上手に国家戦略に展開できていると感嘆した次第です。

 国家の4つの柱:
 1.経済的自立(2020年までに完了)
 2.環境保護
 3.文化の推進
 4.良き統治

 GNHの9つの尺度:
 1.精神面の幸福
 2.健康面での幸福
 3.教育の充実
 4.文化の多様性
 5.地域の活力
 6.環境の多様性と活力
 7.Work & Life バランス
 8.生活水準・所得
 9.良き統治

 さて、ブータン見聞の締めくくりとして、首相・大臣から伺った第五代ワンチュク国王とそのお父様である第四代国王のサーバントリーダーのエピソードを紹介しましょう。

 上記の国家ビジョンやGNHは第四代国王が導入されました。
 17才という世界最年少の君主として就任した国王は、GNHを国是として、GNPではなく国民の幸せを最優先に国造りを進めました。
 
 ブータンの目標を「幸福」と定め、仏教の考え方を現代の言葉で表現し、GNPと対比してわかりやすくGNH(Gross National Happiness)と名付けたそうです。

 教育・医療制度などを充実させ、伝統、文化や自然環境を尊重しながらも、インフラ整備を推進されました。
 驚いたのは、国王自ら、国会に対して国王の罷免権を付与したほか、絶対王政から立憲君主制へ移行をさせたことです。
 君主自らが移行させた例は世界の中でも稀なケースです。

 2006年に自ら退位して現在の第五代ワンチュク国王に譲位し、2008年に議会制民主主義による政府を選ぶための総選挙を実施。
 同年、すでに王位を継承していた第五代国王の戴冠式が王宮にて行われました。
 譲位後の第四代国王の生活は質素で、自宅は丸太小屋、カーペットは穴が開いていて、自家用車は十数年ものという話でした。

 現国王も、通勤は王宮近くの住居から徒歩通勤。
 住居は王妃と二人暮らしなので2LDKとのこと。
 自ら、襟を正す生活をされているそうです。

 最後に、現地で入手した第五代ワンチュク国王の戴冠式でのスピーチの一部を紹介します。

 Throughout my reign I will never rule you as a King. I will protect you as a parent, care for you as a brother and serve you as a son.
 I shall give you everything and keep nothing; I shall live such a life as a good human being that you may find it worthy to serve as  an example for your children; I have no personal goals other than to fulfill your hopes and aspirations. I shall always serve you,  day and night, in the spirit of kindness, justice and equality.
 As the king of a Buddhist nation, my duty is not only to ensure your happiness today but to create the fertile ground from which  you may gain the fruits of spiritual pursuit and attain good Karma.

 私は、私が主権を握ってから最初から最後まで”王”として皆さんを支配することはありません。
 私は、あなたたちを実の親のように守り、あなたたちを兄弟のように手助けし、さらに息子のように尽くします。
 私はあなたたちにすべてを与え、何一つ制約しません。
 私は、あなたたちの子供たちの手本となるような立派な人間であるように生きます。
 私は、あなたたちの願いや望みを叶えること以外は何一つ目指していません。
 私は親切心、正義感、そして公平さのもとに日夜を問わずあなたたちに尽くします。
 一仏教国の王として、あなたたちの今現在の幸せを確かにするだけでなく、あなたたちが精神面での果実や良きカルマを達成できるように、豊かな国土を築くことが私の使命です(久野訳)。

 子供たちの「手本」となるというくだりはジーンときます。
 国王である前に人として手本となることを目指すという姿勢は、まさに、奉仕型リーダーシップであるサーバントリーダーです。

 国王自らが国民の幸福のためのサーバントを目指すというコミットメントを示して国家を統治していく姿は、我々ビジネスリーダーにとっても必須のリーダーシップスタイルだと改めて痛感した次第です。

 今回、GNHを目指すブータンで、その原点を見聞できたことは、とても有意義でしたし、その考え方は、私のビジネスコーチングのフィロソフィーと共感できるところでしたので、一層の感銘を受けました。

 「龍を育てる」ということは、「自分の煩悩を如何にコントロールして、より知見の高い教養ある人になるか努力していく」ということ。

 国のトップ、組織のトップ自らが常に「意識」して「実践」しなければならないことだと再認識した旅でした。

 

執筆者プロフィール
久野 正人(ひさの・まさと)

■略歴
1981年、慶應義塾大学法学部卒業。
古河電気工業株式会社入社。人事、海外事業、資材部、ブラジル駐在。
その後、日本サン・マイクロシステムズ(経理課長)、日本シリコングラフィックス(サービス企画部長、経理本部長)を経て、2000年、米国大手医療・研究機器メーカーであるベックマン・コールター株式会社入社。
CFO、事業部長を経て、2005年に代表取締役社長就任。
2011年末に同社を退職し、2012年1月にプロのエグゼクティブ・コーチとして独立。
株式会社エム・シー・ジー代表取締役。http://www.mcginc.jp/index.html

■特徴
2012年1月に独立後、1年半で100名近い社長、役員、部長、次世代リーダーへのコーチングの実績を持つ。
社長、CFO、事業部長等の多彩なポジション経験と日米企業4社(製造業、IT2社、医療・研究)でのグローバル経験(日本企業13年、外資系企業17年、うちブラジル駐在6年)を活かしながらのグローバル・リーダーシップ育成にフォーカスしたコーチングが特徴。
特に、30~40歳代の管理職(次世代リーダー、女性管理職)を対象にした、ハイポテンシャル・リーダー育成を目的としたコーチングに力を注いでいる。ミッションは、「世界で勝てるリーダーを創る」。

■書籍
・『世界基準―8つの動き』(共著、ぜんにちパブリッシング)
・『メンターの力 起業家編』(共著、ミラクルマインド出版)
・『リーダーシップ・マスター』(英治出版)http://www.youtube.com/watch?v=HM5SBLdObGo
・プレジデント誌50周年記念号「職場の心理学第311回」
http://all-in-one-cms.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/businesscoach.co.jp/files/130424_1043_001.pdf

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