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第27回:エグゼクティブコーチは戦友― 共に“見えない敵”と如何に戦うか ―

久野 正人 久野 正人

先般、あるクライアントの 10か月にわたるエグゼクティブコーチングが終了した。
 外資系企業の社長(以降Aさん)である。

 私と同年齢、元IT出身ということで共通の知り合いもいたり、また、私が外資系の社長経験者であったことで、コーチングを導入検討する際の面談  (クライアントの方がコーチを選定するプロセス)でも、お互いの相性が上手くかみ合った形でスタートできたコーチングだった。

 私が、全てのクライアントにコーチングの最終セッションでお聞きする質問が「貴方にとってエグゼクティブコーチとはどんな存在でしたか?」
 である。

 クライアントによって答えは様々なのだが、先日のAさんの答えは、特に「ジーン」とくるものがあった。
 彼は単刀直入にこう答えた。

 「エグゼクティブコーチは私にとっては戦友です」

 それは、全く私の予想外のものでサプライズだった。
 それを受けて私は次の質問をした。

 「どういう意味で”戦友“と思われたのですか?」

 Aさん曰く、
 「この10か月間、様々な難題に直面し、部下との人間関係も含めて、
 試行錯誤してきました。コーチングによって、いろいろな戦略実行の選択肢が増え、且つ、精神的にも支えられた場面が多かったです。
 社長という立場柄、誰もビジネスの相談をできる人がいませんからね…。」

 更に続く。

 「ビジネスは様々なシーンで戦いの連続です。
 リスクがいつ実現してしまうかも予測ができません。
 例えですが、私の知らないところで、食材偽装の様に、コンプライアンス問題が起きているかもしれない、
それが私に伝わってきていないかもしれない、などと考えると熟睡なんかできませんよ。

 まさに戦場ですよね。
 現場で一緒に戦ってくれるわけではありませんが、コーチングのセッションの時間だけでなく、緊密なやり取りや、会食などを通して、一緒に課題を共有して解決できたという意味で、“戦友”をいう単語がぴったりなんですよ!」。

 クライアントの先にあるコーチからは“見えない”現場でクライアントが戦っている状況を理解することは、コーチ、特にエグゼクティブコーチに  とって難題の一つである。

 スポーツのコーチであれば、アスリートの演技やチームの戦いぶりが目の前で“見える”ので、具体的に敵に勝つための具体的な指示が可能だ。

 しかしながら、コーチングでは、コーチは“コーチには見えない敵”とクライアントがどう戦っているのかを深く知る必要がある。

 この“見えない敵”はクライアント・システムと呼ばれるもので、コーチングのクライアントを取り巻く様々な環境要因(部下、同僚、上司、  顧客、トラブル、家族、プレッシャー、制度、文化など)の中でクライアントに襲い掛かる課題、難題のことをいう。

 従って、クライアント・システムを正確に理解することでコーチは初めてクライアントの現状を知ることができ、コーチングで効果的なセッションを実現できるというわけだ。

 では、クライアント・システムを正確に理解する方法は何か?

 まずはクライアントのステークホルダー(上司、部下等の関係者)からコーチングのスタート前にヒアリングを行うことである。
 いわゆる、「360度フィードバック」である。

 ヒアリングでは、複数(通常5名)のステークホルダーからクライアントの人間関係やクライアントの強み・改善点・期待することのみならず、クライアントがどんなクライアント・システムの中で具体的に何と“戦っているか”を質問で聞き出す必要がある。

 すなわち、“戦場の様子と自部隊の状況”の把握だ。
 コーチには理論家の様に考え、リサーチャーの様に観察する「状況を聞き出す」力が求められるのである。

 クライアントにヒアリング結果をフィードバックするという“第三者の視点でのクライアントの戦場での状況”に関するインプットは、クライアントが大きな地雷を踏むことなくチャレンジし続けるための大きな情報源や気づきとなる。

 その情報と気づきに基づいて、クライアントは行動変革のテーマと具体的な変革項目を決め、行動変革を実践するようにになるが、コーチは“見えないクライアント・システム”の中で行動変革を実践するクライアントに的確なコーチングをしなければならない。

 では、どうやってコーチはクライアントの行動変革の実践のモニター(実践しているかどうか)とその組織への影響(実践が周囲に影響をどの程度与えているか)を把握することができるのであろうか。

 クライアント本人への的確な質問は有効だ。
 有効な質問とは、本質に迫る質問であり、見失いがちな本質に気づかせる効果がある。

 実践度を加速させるには、本人の気づきと主体的な行動が必要だ。
 だが、その行動が“見えない敵”にどのように影響を与えているかはクライアント本人もコーチも知る術はない。

 知り得るための唯一の方法は、ステークホルダーからのフィードバックである。
 フィードバックを中間地点でもらい、影響度をモニターし、後半の行動変革をギアチェンジする。

 “見えない敵”に勝つために、戦況を的確に分析し、戦略を練り直し、より効果の高い戦術で、最終的には勝利を収めることを目指すことと同じだ。

 「戦友」とは、“敵”に対して共に戦い、勝利を共に味わう仲間である。
 コーチングの世界においては、コーチが、クライアント・システムの中で、コーチからは“見えない敵”にクライアントを勝利させるための極めて高度な「トモダチ作戦」である。
 敵に勝利するだけでなく、敵をどう”味方”につけるかも重要だ。

 それは、クライアントとコーチ両者の間に深い信頼関係がなければ実現しないことであり、その信頼関係は、クライアントがコーチの「引き出す力」で気づいたことを現場で小さな実験(実践)を試行錯誤し、その結果の小さな勝利の積み重ねから生まれるものであると確信できる。

 エグゼクティブコーチングとは、こんな人間臭い人生劇場だからこそ、クライアントの行動変革が組織の成果に結びついた達成感に共に浸り、「戦友」としての勝利の美酒を酌みかわす楽しさも、また一層格別なのである。

 

執筆者プロフィール
久野 正人(ひさの・まさと)

■略歴
1981年、慶應義塾大学法学部卒業。
古河電気工業株式会社入社。人事、海外事業、資材部、ブラジル駐在。
その後、日本サン・マイクロシステムズ(経理課長)、日本シリコングラフィックス(サービス企画部長、経理本部長)を経て、2000年、米国大手医療・研究機器メーカーであるベックマン・コールター株式会社入社。
CFO、事業部長を経て、2005年に代表取締役社長就任。
2011年末に同社を退職し、2012年1月にプロのエグゼクティブ・コーチとして独立。
株式会社エム・シー・ジー代表取締役。http://www.mcginc.jp/index.html

■特徴
2012年1月に独立後、1年半で100名近い社長、役員、部長、次世代リーダーへのコーチングの実績を持つ。
社長、CFO、事業部長等の多彩なポジション経験と日米企業4社(製造業、IT2社、医療・研究)でのグローバル経験(日本企業13年、外資系企業17年、うちブラジル駐在6年)を活かしながらのグローバル・リーダーシップ育成にフォーカスしたコーチングが特徴。
特に、30~40歳代の管理職(次世代リーダー、女性管理職)を対象にした、ハイポテンシャル・リーダー育成を目的としたコーチングに力を注いでいる。ミッションは、「世界で勝てるリーダーを創る」。

■書籍
・『世界基準―8つの動き』(共著、ぜんにちパブリッシング)
・『メンターの力 起業家編』(共著、ミラクルマインド出版)
・『リーダーシップ・マスター』(英治出版)http://www.youtube.com/watch?v=HM5SBLdObGo
・プレジデント誌50周年記念号「職場の心理学第311回」
http://all-in-one-cms.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/businesscoach.co.jp/files/130424_1043_001.pdf

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