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第65回:多忙で、しかも思うように仕事がはかどりません!     -黒澤 明の「画コンテ」に学ぶ-

加地 照子 加地 照子

女性リーダーのAさんから、相談を受けました。
「多忙で、しかも思うように仕事がはかどりません!」

彼女は、生産現場で取りまとめの役目も果たし、 直属の部下を数人抱えています。

将来を期待されている人材の一人です。

そんな相談を受けたとき、コーチのあなたはどうしますか?

どんな質問を彼女に投げかけますか?

直ぐ仕事内容の明細に入ってしまいませんか?

・彼女がどんな人物か知っていますか?
・彼女自身は、自分がどんな行動傾向をもっている人間か知っていますか?
・彼女は、組織に働く人間として
 明らかなミッション、ビジョンを持っていますか?

仕事の明細に入る前に、
あなたはこの3つをコーチとしての自分自身に問いかける必要があるのではないでしょうか。

1.黒澤 明に学ぶ

ビジネスコーチングにおけるコーチの重要な役割は、 クライアントの価値観、使命感、夢、目的、目標を浮き彫りにし、 成果への一連のストーリーを描いていくこと、そしてクライアント自身が成功へのストーリーを描けるように 成長を促すことだと思います。

「世界のクロサワ」と称される映画監督の黒澤明は、映画を撮る際に、 限りない数の「画コンテ」を自分で描き、具現化していきました。
彼は撮影する映画のストーリーを、視覚を含め五感で事前に全て 描き切る能力を持っていたのです。

著書「『七人の侍』創作ノート」(2010)を見ると、 そのことがよく分かります。 
そして、彼は読書をするたび、 気になる文章を必ずノートに書きとめていました。(注1)

その行動の背景はなんなのでしょう。

四男四女の末っ子。
父は軍人出身、映画好きでスポーツを奨励した人でした。
小学校時代はドロップアウトでいじめに遭ったものの、 剣道を学び自己に自信をもつようになりました。
18歳の時、二科展に入選。
文学、演劇、音楽、映画に耽溺したのです。画家の卵として画集を買い、 買えないものは何日も書店に通って見るほどでした。

そして、26歳の時に映画界に入ります。

彼の生涯の恩師は、山本嘉次郎監督。助監督として長く仕えました。 師の心に残ることばとして、

俳優を、監督の考えている方へ強引に引っ張っても、監督の考えている 所へは、半分しか来られない。それなら、俳優の考えている方へ押して やれ、
そして、俳優の考えている倍のことをやらせろ。」

「俳優に関する3つの重要なことは、

①人間には、自分のことはよく分からない。
 自分の話し方や自分の動作を客観的に見ることは出来ない、
②意識した動作は、その動作よりも、その意識の方が見えてしまう、
③どうすればよいか、を教えると同時に、何故そうするのか、
 ということを納得させなければいけない、ということである。」

「映像と音響には相乗関係がある。」を挙げています。(注2)

2.コーチングに転換してみる

コーチは、よく指揮者や監督にも例えられます。
ならば、クライアントは、俳優に当たると言えましょう。

宮崎駿氏は、エッセイ「ワンショットの力」のなかで 黒澤作品を激賞しています。
「フィルムのどこか途中から見始めても、力のある映画は、瞬時に何かが 伝わってくる。数ショットの映像の連続だけで、作り手の思想、才能、 覚悟、品格が、すべて伝わって来るのである。要するにどこを切っても、たちまち当たりかはずれか判ってしまう。まるで金太郎アメだ。
B級C級は、どこをきってもB級C級の顔しか出てこない。」(注3)

コーチングに移し替えれば、1時間のセッションの中で、 場面場面を切り取るだけで、A級、B級C級と分かってしまうということ なのでしょうか。
となれば、最初の挨拶、傾聴、共感、承認、質問、エンディングすべてが 重要で、クライアントの審判の対象となるのだと思います。

3.「画コンテ」を描き、クライアント(俳優)とともに完成する

では、コーチは、山本・黒澤監督の言葉に心に留めつつ、 クライアントに先ず何に取り組んでもらえばよいのでしょうか?

対面式のコーチングであれば、コーチの表情、声音、言葉、 すべてが重要な要素となります。

彼女にこんな質問をしてみました。

・ご自身の日々の出社から退社までのすべての行動は何ですか?
 (3日間でも一週間でも明細を書いてみましょう)
・その日一日の目標がありますか、それを現場のメンバー達にどのように伝えていますか? 
・目的・目標をしっかり明確にしていますか?
・相手(上司・顧客などの関係者)行動スタイルを考慮して伝えていますか?
・自分の弱み・強みを知ったうえで 行動していますか?
・上司の期待と現状のギャップについて、上司としっかり話をしていますか?
・実際の行動表の結果を見ながら、上司と話をしていますか。
 アドバイスを受けていますか?

続けて、上司との面談を想定して2人でロールプレイを行いました。
アサーティブネスのスキルを使ってのシミュレーション、画コンテづくりです。

4.実行してみた成果は?

彼女は一週間、終日行動をすべて書き出してみました。 
すると、部下に移管してもよい仕事内容、費やされている時間とその割合が明らかになりました。
上司と面談し、自分の行動スタイルの弱みをカバーしつつ 上司の行動スタイルに合わせ、上司の要望を聞き、自己の考えとの齟齬を明らかにしました。

くわえて、部下へのエンパワーメントを目的とした新たな取り組みについて提案し、了承を得ました。
挑戦を開始した彼女が、何よりも嬉しく思ったのはストレスが減少し、 自分自身への自信を強めることができたことだったのです。
彼女はいま、ビジョンに向かって歩んでいます。

【出所】
(注1)黒澤明 2010年「『七人の侍』創作ノート」文藝春秋
(注2)黒澤明 1984年「蝦蟇の油」岩波書店
(注3)宮崎駿 「ワンショットの力」
西口徹編集 1996年12月22日(増補 2010年1月30日)
文藝別冊 [生誕100年総特集]黒澤明 河出書房

 

執筆者プロフィール
加地 照子(かち てるこ)

東京外国語大学フランス語科卒
BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ
ビジネスコーチ株式会社パートナーエグゼクティブコーチ
世界ビジネスコーチ協会(WABC)正会員
日本航空株式会社、ジャルパック、日航財団、21世紀職業財団に勤務後独立
ホスピタリティ・マネジメント学論にて修士号
クライシスマネジメント協議会理事、日本ホスピタリティ・マネジメント学会理事

■実績
【人材育成に早期より関わっている】
日本航空入社後、初代女性海外実習生としてパリ勤務、のち欧州各国航空会社と協定交渉、営業所長を経て中近東クウェート駐在。本社管理職として世界各国社員の人材育成企画・訓練に従事。女性活躍推進の全社的新規プロジェクトを担当。日航財団広報担当部長および研究開発センター主任研究員となる。
2003年21世紀職業財団の東京事務所長のち本部事業部担当部長となり、日航での現場・政策両分野の経験を生かし、リーディング諸企業の人財多様性経営や女性活躍推進の実行支援に集中する。2010年独立。
【ホスピタリティ・リーダーシップ・コーチングを独自に提唱し実践している】
「グローバルに活躍する女性幹部を育成する」をビジョンとし、2011年にプロのビジネスコーチ、2012年に世界ビジネスコーチ協会正会員となる。企業・行政・大学より要請を受け研修指導。役員・基幹管理職を中心としたOne to One Coachingを実践。

■書籍
直近では「ホスピタリティとリーダーシップの相関性に係る一考察」:2012
『ホスピタリティ』第19号(日本ホスピタリティ・マネジメント学会刊行)

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