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第76回:“カンブリア宮殿”にみるエグゼクティブコーチングのモデル
-「村上龍」氏はExcellent Coach-

加地 照子 加地 照子

通称【カンブリア宮殿】は、2006年に放送が開始されました。現在は毎週一回22時より54分にわたり放映されています。ホストは村上龍氏、アシスタントは小池栄子氏、ゲストはいずれも経済界で大活躍をされている企業のトップです。

 この番組の魅力は何でしょうか?

 私はその魅力を「エグゼクティブコーチングのロールプレイ」を間近に観ることができること、と表現したいと思います。

 村上氏は、2013年に、著書「カンブリア宮殿 村上龍の質問術」の中で、 「・・これまで、こんなに多くの時間を『質問』に費やしたことはないと何度も実感した。また『質問』の重要性と、むずかしさを、これほど感じた経験もなかった。(注1)」と吐露しています。

 この番組の主役は勿論ゲストです。コーチングに例えればクライアントです。ホストである村上氏は、質問をする側なのでコーチといえます。

 二者のやりとりは、1on1コーチングという双方向で実施されています。

 また、この番組は放映されているので、第三者である視聴者、オブザーバーが存在します。視聴率5%は決して高くないものの、約200万人の高所得な常顧客がいるといわれています。。

 村上氏は、続けています。
「ゲストはグローバルに活躍する超一流の経済人である。小説家である自分はかならずしもゲストまたゲストの事業を十分に心得ているわけではない。だから次の準備が必要だ。

① ゲストの漠然としたイメージづくり
② 業界全体の資料とゲスト個人の行動や信条などを把握する資料の準備と読み込み
③ 番組全体の核となる質問を考える
④ 想定問答を組み入れた台本を見ながらの打ち合わせ
⑤ 直前のミーティング(新たな気づきもある)
⑥ 収録中に重要な質問の思い付き (注2)」

 村上氏は、
「観察を継続していると『気づき』が泉のように湧いてくる。また『核となる質問』こそ大切であり、それは本質的でコアな疑問が浮かび上がってのみ生まれてくるもの」と強調しています。

 例えば、
「『来期の売り上げは業界全体として下がりそうですが、その幅はどのくらいになりそうですか』といった質問は、限定された回答が出てくるので面白くない。

 常識にとらわれない好奇心が大事で、『あれ?なんでこんなことが可能だったんだ?』『これはちょっとおかしいぞ』というような『王様は裸だ』的な素朴な疑問をもつことだ。
『そもそも、どうしてフィルムメーカーは、それほど数か少なかったのか』という視点からの、相手が考えなければ答えられない質問が魅力的と伝えています。(注3)

 彼は、歴史上のストーリーを追って映画を見るようにゲストの事業を組み立てていきます。小説家なのでこの分野はお手の物です。時系列と空間軸の変化を見、どこが転機となったのか、ハイライトはどんな要因なのかを探します。文脈と塊で区別化していきます。

 このような準備を進めたあと、彼は本番に臨むのです。

 相手にリラックスしてもらえるように場を和ませる会話から始め、常に「相手を尊重する」姿勢を貫いています。それは村上氏の真剣な表情、声音、丁寧な言葉遣いから感じることができます。相手に敬意を払うという信条は、「リッツ・カールトンホテル」の成功事例でもうかがい知れます。

 去る5月12日は、名古屋の株式会社「矢場とん」の女将鈴木純子氏がゲストでした。 人情女将のトップとしての母親のような行動ぶりが、村上・小池氏コンビの質問により惜しみなく明らかにされました。

 そこでちょっと寄り道をして、「村上氏の強みは質問力ではないか?」という仮説を立ててみましょう。

 彼は、1976年に、デビュー作である著書『限りなく透明に近いブルー』で第19回群像新人文学賞ついで芥川賞を受賞しました。同書では、かぎかっこで括った文章の5割がOpenおよびClosedの質問文体で占められています。

 そして2015年の近著『おしゃれと無縁に生きる』では、「わたしは、質問することに長けているとよく言われるが、それは、だいいちに、子どものころから、疑問に思ったことをすぐ口に出して言ってきたからだ。・・・わたしの両親は二人とも教師で、忙しかったにもかかわらず、どんな質問にも、ていねいに答えてくれた。(注4)」と振り返っています。

 「村上氏は、強みである質問力を強化してきたし、するであろう」と申せます。

 ゲストは事業経営の過去・現在・未来を最も知り尽くしている当事者です。村上氏は番組を準備する段階でゲストをすでに深く理解しています。しかし、ゲストの心情と一般視聴者にはギャップが存在します。

 それを埋めるために何が準備されるのでしょう?

 第一に企業の取組み内容がビデオで放映されます。第二に、村上氏は、相手に質問をする前に、さりげなく状況説明を簡単に付けています。これにより視聴者は、ゲストの過去の努力や思い入れについて、自己の頭の中で絵姿を描くことができるので、ゲストが伝えることに付いていけるのです。

 番組の締めくくりにも、同氏のコーチとしての素晴らしさを感じることができます。「編集後記」で述べるゲストへのフィードバックは、簡潔で要を得た心からの賛辞であり「承認行為」そのものだからです。クライアントともいうべきゲストの方々は、この「褒められる」を一要因として一層自己実現に注力なさるのでしょう。前述の鈴木純子氏へのキーワードは「女将が実行したのは、あらゆる企業の参考となり得る、普遍的で、かつ画期的な改革だった。」でした。

 経済番組『カンブリア宮殿』の価値は、「村上氏の質問に企業トップが答えるという相互のやりとりから、視聴者が感動し多くの気づきを得ること」と考えます。

 そして筆者をはじめとして視聴者は、番組全体を通して、自己の人生や経営のモデルを読み取り、明日へ成長の指標としていくのだと思います。

【参考文献】
注1 村上龍 2013年「カンブリア宮殿 村上龍の質問術」日経文芸文庫
注2 村上龍 2013年「カンブリア宮殿 村上龍の質問術」日経文芸文庫
注3 ibid
注4 村上龍 2015年「おしゃれと無縁に生きる」幻冬舎
   ※父上は美術教師、母上は数学教師でした。

 

執筆者プロフィール
加地 照子(かち てるこ)

東京外国語大学フランス語科卒
BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ
ビジネスコーチ株式会社パートナーエグゼクティブコーチ
世界ビジネスコーチ協会(WABC)正会員
日本航空株式会社、ジャルパック、日航財団、21世紀職業財団に勤務後独立
ホスピタリティ・マネジメント学論にて修士号
クライシスマネジメント協議会理事、日本ホスピタリティ・マネジメント学会理事

■実績
【人材育成に早期より関わっている】
日本航空入社後、初代女性海外実習生としてパリ勤務、のち欧州各国航空会社と協定交渉、営業所長を経て中近東クウェート駐在。本社管理職として世界各国社員の人材育成企画・訓練に従事。女性活躍推進の全社的新規プロジェクトを担当。日航財団広報担当部長および研究開発センター主任研究員となる。
2003年21世紀職業財団の東京事務所長のち本部事業部担当部長となり、日航での現場・政策両分野の経験を生かし、リーディング諸企業の人財多様性経営や女性活躍推進の実行支援に集中する。2010年独立。
【ホスピタリティ・リーダーシップ・コーチングを独自に提唱し実践している】
「グローバルに活躍する女性幹部を育成する」をビジョンとし、2011年にプロのビジネスコーチ、2012年に世界ビジネスコーチ協会正会員となる。企業・行政・大学より要請を受け研修指導。役員・基幹管理職を中心としたOne to One Coachingを実践。

■書籍
直近では「ホスピタリティとリーダーシップの相関性に係る一考察」:2012
『ホスピタリティ』第19号(日本ホスピタリティ・マネジメント学会刊行)

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