第2回:人に関する経営課題(1)―「己を知る」がすべての出発点―

皆さん、はじめまして。
ビジネスコーチ(株)のパートナーコーチの久野正人です。
私は、昨年の12月に30年間にわたる会社員生活を卒業し、
この1月に独立をして、エグゼクティブコーチという職業を選択しました。
外資系の社長を永年やっていましたので、まさに、「経に営は人なり」の
考えを身にしみて体感してきました。
今回の連載コラムでは、その経験の中で実感した「人に関する経営課題」の
ポイントを書いてみたいと思います。
<「人と人との関係」が原因>
私の30年間にわたるビジネスパーソンとしての
様々な役職経験を通しての結論ですが、企業をはじめ、すべての組織が抱える
課題のほとんどのケースには、「人と人との関係」にその原因があります。
それは、社内だけではなく、顧客との関係にもあてはまります。
社内で売上が伸びない、プロジェクトが進まない、
効率が悪いなどの原因も、表面的には様々な問題が関与していますが、
突き詰めると、上司と部下、部門間、部下同士の「ギクシャクした」関係の
悪化が引き金や根本原因であったりします。
顧客との関係で大きなクレームが「発生する」のも、
その事情をヒアリングすると、社員間の単純な連絡ミスや伝達内容の
不正確さによるものです。
「発生した」のではなく、ある意味、当然の結果としてクレームを
「発生させた」ということです。
<今に始まったことではない「人と人との課題」>
最近は、人と人との課題解決に向けての
セミナー、本、講座、コーチングなどのいわゆる「メソッド(方法論)」が
流行しており、実際、それらの中で解説されている
いくつかのツール(具体的解決方法)はとても役に立つことがあります。
事実、私もコーチングやセミナー講師として、その点のお手伝いをさせて
いただいています。
でも、考えてみてください。
太古の昔から、人と人との関係は「ギクシャク」することが
ある種普通の状態であり、昔であれば、それが切ったり切られたりに
なったり、行きつく先には、地域的な争いになったり、
世界を揺るがす戦争に発展したりして、「決着」をつけていたのだと
考えれば、メソッドを教わる機会のある今の世の我々は、
とても恵まれているという考え方もできます。
<課題の解決をしにくくなってきた環境変化>
ところで、バブル崩壊までの日本の高度成長時代にも
「人と人の課題」はきっとあったはずであり、その時代を生き抜いてきた
ビジネスパーソンの先輩方が、部下と上司の関係の課題に日々直面して
解決策を模索してきたのは間違いのない事実です。
ただ、今と事情が異なるのは、当時は、関係が「ギクシャク」していた
としても、将来の社会に夢と希望があったことです。
自分も国と企業に帰属していることで、人間としても、生活面でも
「成長できる」という確信を持って、
満足感の高い生活をおくることができていたのだと思います。
ところが、失われた20年間と将来の社会保障と経済成長のダブル不安の
環境変化で、一挙にその確信が崩壊してしまいました。
確信が崩壊すれば、余裕が失われ、「ギクシャク」を緩和してくれる
材料がなくなります。
その結果として経営の根幹に影響するレベルまで「人と人との関係」の
問題が注目されることになったのです。
<「良い状態」か「良くない状態」による影響>
人間誰しも「良い環境(状態)」の時には、気持ちの余裕が生まれ、
他人を認める、許すという感情が自然と湧いてきます。
売上を達成できた時に部下を褒めてあげたり、昇進を達成できた時に
部下にお礼を言ったりご馳走したり…等々。
プライベートでも、持株が上がったり、宝くじにあたって小金持ちに
なったりすると、家族に優しくなったり、子供にお小遣いをあげたり
するのも同じことです。
つまり、「良い状態」では、人間は誰でも「良い人」「懐の深い人」に
なれるわけで、問題なのは「良くない状態」のときにどのような振る舞いが
できるか、ということではないでしょうか?
追い込まれた状態や余裕のない状態の時に、どのように人と接することが
できるかというチャレンジは、多くのビジネスパーソンは思い当たる節が
多々あるはずです。
<人間本来の「特性」を知って対処する>
このように、取り巻く「状態」によって人はその対処に差が出ます。
「状態」は自分自身でコントロールできないことも多いのですが、
「状態」を把握してどのように対処すべきであるかを考え
準備しておくことはできるはずです。
「今はどういう状態だから、どのように対処しないとネガティブな行動を
とってしまうかもしれない」とか、
「どういう状態の時に自分はどういう状態になるパターン認識があるか」
など、自分自身の特性を知っておくことで、最悪の結果を回避できます。
今日はムードエレベーター(感情の状態)が
1階で停まっている状態なのか、上層階に上っているのか、
はたまた、朝は最上階でも午後は1階まで急降下しているのか…。
自分自身の特性を知るとは、
何階にいるときに自分がどういう行動パターンになるのかを
予め理解しておくことなのです。
<「己を知る」にはどうしたら良いか?>
しかしながら、「自分自身の特性を知る=己を知る」には、普通であれば、
多くの修行をこなさなければその領域には達しません。
実は、私自身も、未だこの領域には程遠い所にいると思っています。
では、少しでも「己を知る」領域に近づくことは、日常の中では
実現不可能なのでしょうか?
答えは、「自分に近しい他人から教えてもらう」ことで同じ程度の効果は
得られると思います。
自分で自分を知るのは難しくても、妙なプライドを捨て、少しの勇気を
持って自分の周囲に自分がどう思われているかを聞いてみることです。
自分が怖がられていて、なかなか素直な意見を言ってもらえる
環境にない人は、コーチなど第三者にお願いするのも良いでしょう。
「己を知る」こと、すなわち、「己を裸にしてみる」ことが、
人に関する経営課題を克服するためのすべての出発点だと思うのです。
<「龍の国」の話>
次回の私のコラムでは、「人に関する経営課題(2)」として、
「己を知った」次のステップとして、
「龍という人格のコントロール」について、昨年11月に国王夫妻が来日で、
一躍有名になったブータン王国(雷龍の国と呼ばれる)のワンチュク国王が
被災地の福島県で語ったといわれている「龍の話」をご披露します。
ブータン王国が提唱する
国民総幸福Gross National Happinessの考え方と人に関する経営課題の
接点を探ってみたいと考えています(11月掲載予定)。
執筆者プロフィール
久野 正人(ひさの・まさと)
■略歴
1981年、慶應義塾大学法学部卒業。
古河電気工業株式会社入社。人事、海外事業、資材部、ブラジル駐在。
その後、日本サン・マイクロシステムズ(経理課長)、日本シリコングラフィックス(サービス企画部長、経理本部長)を経て、2000年、米国大手医療・研究機器メーカーであるベックマン・コールター株式会社入社。
CFO、事業部長を経て、2005年に代表取締役社長就任。
2011年末に同社を退職し、2012年1月にプロのエグゼクティブ・コーチとして独立。
株式会社エム・シー・ジー代表取締役。http://www.mcginc.jp/index.html
■特徴
2012年1月に独立後、1年半で100名近い社長、役員、部長、次世代リーダーへのコーチングの実績を持つ。
社長、CFO、事業部長等の多彩なポジション経験と日米企業4社(製造業、IT2社、医療・研究)でのグローバル経験(日本企業13年、外資系企業17年、うちブラジル駐在6年)を活かしながらのグローバル・リーダーシップ育成にフォーカスしたコーチングが特徴。
特に、30~40歳代の管理職(次世代リーダー、女性管理職)を対象にした、ハイポテンシャル・リーダー育成を目的としたコーチングに力を注いでいる。ミッションは、「世界で勝てるリーダーを創る」。
■書籍
・『世界基準―8つの動き』(共著、ぜんにちパブリッシング)
・『メンターの力 起業家編』(共著、ミラクルマインド出版)
・『リーダーシップ・マスター』(英治出版)http://www.youtube.com/watch?v=HM5SBLdObGo
・プレジデント誌50周年記念号「職場の心理学第311回」
http://all-in-one-cms.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/businesscoach.co.jp/files/130424_1043_001.pdf