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連載コラム「CHRO対談」第2弾:サッポロホールディングス株式会社

組織・経営に関わる人に向けた連載コラム

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CHRO対談_vol2_cover.jpgイノベーションを生み出す基盤は「人づくり」。
創業150年のサッポログループに聞く”変革の条件”

HRエグゼクティブコンソーシアム 代表 楠田祐氏の協力のもと企画された本対談では、採用や育成、評価、働き方改革、人的資本経営、DE&Iなど、企業の人事戦略・変革に関わるテーマを扱い、ビジネスコーチ株式会社エグゼクティブコーチ本部・部長の出口がさまざまな企業の経営者や人事部門の担当者と対談を実施。企業の経営者や管理職、経営企画、人事・教育などの組織・経営の業務に従事している方へ向けて、日ごろの業務やこれからの戦略策定におけるヒントをお届けします。

***

創業150周年を目前に控え、グループ従業員6000名以上を抱えるサッポロホールディングス株式会社。市場環境の急激な変革に対応すべく、2023年からは新たな中期経営計画がスタートしており、「ちがいを活かして変化に挑む越境集団となる」という基本方針のもと、「全社員DX人財化」などの人財戦略を着々と実行に移しています。それらの取り組みは新商品開発や業務改善、さらに風土改革にもつながっているといいます。歴史ある大企業が変革を実践していくためには何が必要なのでしょうか。イノベーションを起こし続けるサッポログループの取り組みを聞きました。

執筆者

【プロフィール情報】
ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社
取締役常務執行役員
元 サッポロホールディングス 取締役 佐藤雅志
(さとう・まさし)

ビジネスコーチ株式会社
エグゼクティブコーチ本部 部長
出口亮輔(でぐち・りょうすけ)

ファシリテーター:
HRエグゼクティブコンソーシアム
代表 楠田祐(くすだ・ゆう)

強みである従業員エンゲージメントを生かし、多様な人財の意見をさらに取り入れる風土へ

楠田:サッポロホールディングス株式会社は2026年で創業150年を迎えるのですね。

佐藤:はい。当社は1876(明治9)年、西洋からさまざまな文化が入ってくる中でビールづくりに取り組み始めました。原料のホップや大麦の栽培に適した北海道の開拓へ投資し、日本人技師の手によってビール醸造に初めて成功したのがサッポロビールなのです。同じく当社グループの大きなブランドである「ヱビスビール」は、現在グループ本社を置く東京でビールづくりに取り組み、「恵比寿」の地名の由来となりました。

楠田:まさに日本のビールづくりの歴史とともに歩んで来られたと。

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佐藤:
ただ、苦難の時代も長かったと伝え聞いています。昔はビール1本が5000円前後ほど。日常ではなかなか手が出ない高級酒であり、これを世の中へ広めていくのは簡単ではありませんでした。そうした中でも試行錯誤を重ねて成長し、明治期に創業した企業として150周年を迎えられることをとても喜ばしく感じています。

出口:長年培ってきた企業文化は、現在の経営にどのような影響を与えているのでしょうか。

佐藤:明確な強みとして根付いていると思います。昨今の急激な市場変化への対応や多様性の尊重を考えるときには、どうしても過去の否定から入ってしまう企業も多い。しかし、私たちはこれまでの歴史に自信をもっと持ってもいいはずだと考え、150周年に向けた中期経営計画を立てる際には、自社の強みを再認識することから始めました。

私たちは創業以来、ものづくりと人づくりを丁寧に進めてヱビスビールやポッカサッポロなどのブランドを成長させてきたのです。その結果として、当社では従業員のエンゲージメントが高く、愛社精神の高い人財が活躍しています。一方、新たな成長戦略を形にするためには、これまでにない多様な人財が必要であるとも考えています。

出口:従業員エンゲージメント向上に苦労している企業も少なくありません。御社ではなぜ愛社精神を持つ人財が育つのでしょうか。

佐藤:良い意味で同質性の高い組織であり、長年にわたって人財育成の手間と労力を惜しまなかったことが要因でしょう。たとえば、営業にもホップや大麦などの産地に赴かせ、原材料の大切さを教えていたこともあります。人財育成に高い情熱を持ち、投資し続けてきたことも当社の強みですね。

多様性の本質的な意義とは? 経営陣で議論を重ね、社内への発信も強化

楠田:御社の取り組みを拝見していると、経営戦略と人財戦略の連動を強く意識していると感じます。今後はより多様な人財も必要になるとのことですが、新たな中計ではどのような戦略を掲げているのですか。

佐藤:2023年の年初からの新たな中期経営計画として「Beyond150 ~事業構造を転換し新たな成長へ~」を策定し、「ちがいを活かして変化に挑む越境集団となる」という基本方針のもとに人財戦略の柱を打ち立てました。経営戦略の実行を支えるために5つの優先課題として「多様性の促進」「社内外人財の流動的な活用」「経営人財育成」「スピードある成長への積極投資」「エンゲージメント向上と健康促進」を定め、それぞれにKPIを設定。具体的なアクションプランを実行しているところです。

今後の課題は、同質性の高い組織の中で、多様な人財の意見をさらに生かしていくこと。そのため管理職の育成にも注力し、1on1などを含めたマネジメントスキル向上にも取り組んでいます。

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出口:
経営戦略と人財戦略を連動させる際には、経営陣の間での合意形成に苦労する企業も多い印象があります。佐藤さんは経営陣の中でどのようにコミュニケーションを図ってきたのでしょうか。

佐藤:当社でも経営陣の合意形成には時間がかかりましたね。経営会議でもさまざまな議論を重ねました。

出口:特に苦労した部分は。

佐藤:多様性の促進に関する議論です。人的資本開示の流れの中、ともすれば女性管理職比率などの数値目標にばかり目が行きがちですが、私たちは数字を伸ばすことを目的にしているわけではありません。目指すべきは、女性をはじめ多様な属性の人が当たり前に活躍する環境を実現し、それによって事業の成長を実現していくこと。そうした目線合わせには特に留意して議論を進め、具体的な施策へとつなげてきました。

出口:実際に取り組んでいる施策の例もお聞かせください。

佐藤:社内で多様性促進への理解が高まるよう、さまざまな発信を行っています。たとえばイントラネット上には「アイタイワ」というコーナーを設置。これは「会いたい」と「対話」から成る造語で、女性役員と管理職がキャリアについて語り合ったり、私と障がいのある社員が対談したりといったコンテンツを通じて多様性の意義を伝えています。

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研修だけでは意味がない。社外と連携して学びと実践につなげる「全社員DX人財化」の取り組み

楠田:2022年からは「全社員DX人財化」を掲げ、グループ約6000名に対して育成プログラムを提供しているそうですね。

佐藤:DX推進は当社も避けては通れない課題です。そこでトップがDXへの強いコミットメントを宣言し、その上で「人財育成・確保」「推進組織体制強化」「ITテクノロジー環境整備」「業務プロセス改革」を進めていくこととしました。

一丁目一番地はDX・IT基幹人財育成です。社内で育てるのか、それとも外部採用を中心とするのかについて議論を重ねましたが、当社では「実務を熟知している人がDXに携わるべき」という結論に達し、約200名をDX・IT基幹人財にするという目標を掲げています。

さらに「全社員DX人財化」と置いているのは、一部の専門家だけではDX推進は実現しないからです。高いレベルのDX・IT基幹人財を育てても、その上司や一緒に働くメンバーが理解できないようでは意味がありません。そこでITリテラシーを全般的に高めるための育成プログラムも設けています。

出口:現在は多くの企業でDX人財育成の取り組みが立ち上がっているものの、従業員が自発的に学ぶ風土を醸成できなかったり、学んだことを実践する場がなかったりといった問題も顕在化しています。

佐藤:ご指摘の通り、従業員の学びやアイデアを現実に移すところにはギャップが生じがちだと感じています。研修だけでは意味がない。身に付けたスキルをもとに、どうやってイノベーションを起こし、お客さまへの価値提供に貢献するか。そのチャレンジ事例がたくさん出てこなければ会社は変わっていきません。

そこで当社では、業務課題解決や新規事業創出に向けて従業員が自ら提案・実践する場を設けました。日本マイクロソフト社の協力を得て2023年5月に立ち上げた、社内外の垣根を超えたオープンイノベーションプラットフォーム「DX イノベーション★ラボ」です。このプラットフォームでは従業員が「課題解決したい」「新規事業を起こしたい」などのアイデアを書き込み、スタートアップなど社外のラボパートナー企業が自由に見られるようにしました。

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楠田:
なるほど。社外の企業から「そのアイデアの実現に当社の技術が使えます!」と売り込んでもらうわけですね。

佐藤:はい。外部の知見を頼りやすい環境を整え、オープンイノベーションのきっかけを提供していくことを狙いとしています。学びと実践、その両輪を回していくことがDX推進には欠かせないと考えています。

AIを活用した新商品開発や業務改善の実例も。その先に目指すサッポログループの「風土改革」

出口:実際にオープンイノベーションの実例が続々と生まれていると伺いました。

佐藤:はい。一例としては、RTD(※)の開発においてAIに過去の商品情報や原材料情報を学習させ、人間には思いつかない新たな組み合わせによって新商品のアイデアを生み出していく取り組みが進んでいます。すでに商品化にもつながっており、「男梅サワー」ブランドから数量限定で発売した「サッポロ 男梅サワー しょっぱ梅」は、人とAIが協調して生み出した商品です。

(※)Ready to Drink の略。栓を開けてそのまま飲める低アルコール飲料のこと

さらにAIを使った需要予測も着々と進んでいます。定番品のビールなどは過去の天気情報などをもとにある程度需要を予測できますが、期間限定品ではなかなか難しい。失敗すると在庫が増え、需要と供給のアンマッチを引き起こします。そこで小売店さまの販売データなどを活用させていただき、AIが大量のデータを読み込んで需要予測。これによって予測の振れ幅が小さくなってきました。

こうした商品開発や業務改善を通じて、最終的にはDXを風土改革につなげていきたいと考えています。DXを理解してデータを活用できる組織になれば、従業員にとってより魅力的な環境となるはずです。人財育成にも良い影響を与えられるでしょう。

楠田:さまざまな取り組みから、変革への強い意志を感じますね。どんな企業にも課題はあり、各社が取り組みを進めていますが、サッポログループは課題解決への取り組みを決して止めない。

出口:
私も同感です。経営陣の強い意志とメッセージがあり、それに応えて社内がダイナミックに変化し続けている姿は、他社にとって大きな目標となるのではないでしょうか。

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佐藤:
当社でも過去には変革の歩みが停滞したこともありました。ただ、人に本気で丁寧に向き合うところはずっと根幹にあったと思います。何らかのミラクルな施策によって一気に変わったわけではなく、変革を支える土壌が育っていたということですね。だからこそ経営戦略と人財戦略を効果的に連動することもできました。

私たちは“黒ラベル”とか“ヱビスビール”などの強いブランドを育ててきましたが、商品だけでなく一人ひとりの個人も大切なブランドだと捉え、個が100%輝くことを重視しています。今後も元気で明るい会社として、個と組織がともに成長していける環境をつくっていきたいですね。そして、従業員みんなが「サッポログループで働いてよかった」と満足できるようにしたいと考えています。


楠田:サッポロホールディングスの取り組みに今後も注目しています。本日はありがとうございました。

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(執筆・ 写真提供者:株式会社プレスラボ

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