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【HRエグゼクティブサロン 第2回】
富士通が挑むDXをドライブする
Work Life Shift とジョブ型人事

富士通のDXを牽引する、ジョブ型人事制度と働き方「Work Life Shift」とは

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2019 年 9 月の経営方針説明会で「IT 企業からデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)企業への転身を目指す」と表明した富士通株式会社(以下、富士通)。代表取締役社⾧の時田隆仁氏自らが CDXO(Chief Digital Transformation Officer:最高デジタルトランスフォーメーション責任者)となり、全社一丸となって、事業方針をはじめ、社内プロセスや文化、人事制度にまで広範囲の変革に取り組んでいます。

この改革の一環として、2020 年 4 月には新たにジョブ型人事制度を導入。また、「仕事」と「生活」をトータルにシフトし、Well-Being を実現するための「Work Life Shift」というコンセプトを推進しています。

ビジネスコーチ株式会社主催「第 2 回 HR エグゼクティブ サロン」では、富士通の人事改革におけるキーパーソンである、執行役員常務 総務・人事本部⾧の平松浩樹氏をお招きし、同社の取り組みについてオンライン講演を行いました(2020 年 11 月 5 日開催)。

執筆者

ビジネスコーチ株式会社 セミナー事務局

登壇者のご紹介

<登壇者>
富士通株式会社
執行役員常務 総務・人事本部⾧ (兼)健康推進本部担当
平松 浩樹 氏


1989 年 富士通株式会社に入社、主に営業部門やプロダクト部門などの人事を担当。2009 年より、 役員人事の担当部⾧として、指名報酬委員会の立ち上げに参画。2015 年より営業部門の人事部⾧として、営業部門の働き方改革を推進。2020 年より現職。


<モデレーター>
HRエグゼクティブコンソーシアム
代表楠田 祐 氏


NECなどエレクトロニクス関連企業3社を経験した後、ベンチャー企業を10年間社長として経営。2010年より中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクー ル)客員教授を7年経験した後、2017年4月より現職。2009年より年間数百社の人事部門を毎年訪問。専門は、人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。多数の企業で顧問なども担う。2016年より人事向けラジオ番組『楠田祐の人事放送局』のパーソナリティを毎週担当。シンガーソングライターとしても活躍。著書に『破壊と創造の人事』(Discover 21)、『内定力 2017 ~就活生が知っておきたい企業の「採用基準」』(マイナビ)などがある。

顧客のDXを支援すべく、自らDXを成し遂げる

富士通では 1993 年に、アメリカ・シリコンバレーの IT 企業を手本にした成果主義による給与体系モデルを、他社に先駆けて導入しました。しかし、この取り組みは、時代が進むとともに評価制度の形骸化が進み、うまく機能しなかったといいます。平松氏は「1993 年当時、年功序列型の人事制度は将来限界が来て、競争力を失うであろうと予測しました。そこで当社が、欧米型の成果主義による給与体系モデルに移行したことは間違っていなかったと思います。しかし、当時の制度は、何を目指しているのかが不明確で、現場の社員から経営も含めて、十分に納得できるものではありませんでした。この経験が今回の改革で参考になっています」と切り出しました。


富士通では、ソリューション SI、インフラサービスといったテクノロジーソリューション事業が、売上全体の 76.3%を占めます。人員は富士通単体で 3 万 2,600 人、国内グループ企業は 8 万人、グローバルでは 13 万人です。2019 年 6 月に時田隆仁が代表取締役社⾧に就任すると、「IT 企業から DX 企業への転身を目指す」と表明しました。


DX 企業への転身について平松氏は「ビッグデータ、AI、IoT などテクノロジーの進展によってこれまでにない新しいサービスが生まれています。これまでライバルと思っていなかったところから、とんでもなく破壊的な事業者が登場するかもしれません。デジタル化はチャンスとリスクの両面を持っています。私たち自身もお客さまもデジタル技術で成し遂げるべき課題を持っています。これを解決するために私たち自身が DX を果たし、存在意義を示さなければならないのです」と説明しました。


そこで富士通では、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」を新たなパーパスとして掲げました。このパーパスを実現する上で、人事制度は非常に大きなカギを握っています。平松氏は「今までの人事制度は、会社を変えるほどの影響はありませんでした。今回は時田社⾧から『思い切って会社を変えよう』と言っていただきました。人事のメンバーもトップの強いコミットに対してモチベーションが高まりました」と振り返りました。

顧客に最適な DX を提供できるパートナーとなるべく、富士通社内では、データ・ドリブン(※)経営強化、DX 人材への進化・生産性の向上、全員参加型、エコシステム型の DX 推進を推進しています。


2020 年 7 月には DX 推進のための社内プロジェクト「Fujitsu Transformation フジトラ」が立ち上がり、10 月から本格稼働しています。

2020 年 4 月に SAP ジャパン株式会社から入社した執行役員常務 CIO(兼)CDXO 補佐の福田 譲 氏がプロジェクトリーダーとなり、国内 15 部門、海外 5 リージョンから、各 DX 責任者である DX Officerを選出、社内外の声を収集しながら、部門横断での改革の推進、全社構想の浸透を行っています。
(※)測定や実験などのデータをもとにマーケティングなどの意思決定を行う
参考:カオナビ人事用語集

「ジョブ型」の人材マネジメントへの大改革

DX 推進活動を支えるのが、新たな人事制度です。新たなパーパスのもと、人や組織がどうあるべきかを考え、「全ての社員が魅力的な仕事に挑戦」「多様・多才な人材がグローバルに協働」「全ての社員が常に学び成⾧し続ける」といった人と組織のありたい姿をまず決めて、ジョブ型の人材マネジメントへのフルモデルチェンジへ舵を切りました。
これにより、報酬制度、評価制度、ポジションのデザイン、人員計画などが見直され、同時に自律的な学びの支援や 1on1 ミーティングが推進されるなど、大きな変革が次々と行われています。


<年功を排除し、チャレンジを促す報酬体系へ>
従来の報酬体系は職能資格で積み上がっていく年功的なものでしたが、新たに職責ベースの格付け「FUJITSU Level」を設定。「FUJITSU Level」は、レベルに応じて月俸が決まるしくみです。レベルは上下することがありますが、これは、より大きな職責へのチャレンジ意欲を喚起するためのものです。
平松氏は「これによって、およそ半分の社員は報酬が上がり、残り半分は下がります。上がる場合は即座に反映されますが、下がる場合は、1 年目では現状の報酬を維持し、2 年目から 5%減少、3 年目もさらに 5%減り、4 年目からは本来のレベルに下がるというように、段階を踏みます。報酬が本来のレベルに下がるまでの 3 年間で、レベルアップ、社員のチャレンジ意欲を期待したい」と述べました。


また、従来は年齢で一律に運用していた役職離任の仕組みをなくし、パフォーマンスに応じてポストの入れ替え、ダウングレード、ポストオフを行うように見直しました。高いパフォーマンスを発揮し続ければ、従来は 55 歳で役職離任していた人も 60 歳までそのポジションを継続することも可能となります。一方で、部門ごとにポストの総枠を設定することで、昇進や新任登用を計画的に実施するためには一定数のポストオフ、ダウングレードを実施する必要がある仕組みとなります。「ポストオフを実施する場合、従来は一律の年齢が基準になっていたので個別の説明は不要でしたが、これからは一人一人にポストオフとなる理由を説明しなければなりません。対象者の納得性を得るためには、毎年の評価や毎月実施する1on1 ミーティングなどで、本人のパフォーマンスやキャリアに関する対話を継続的に実施することが求められます。こうした対話が促進されるのも進歩だと感じています」と平松氏は説明しました。


<ジョブ型人材マネジメントを支援する「HR ビジネスパートナー」を各部門長に割り当て>
組織や役職のデザインも見直しがなされました。終身雇用を前提とした日本型の人材マネジメントの場合、今いる人の処遇を意識して組織設計をしがちです。平松氏は、「現有人材ありきで組織や事業を考えることになると、大きな成⾧は見込めません。戦略・ビジョンを優先して考え、その実現のための組織や人材戦略を考えることを再確認しました」と語りました。


ジョブ型人事制度では、その基盤を整えるためにレベルごとの責任権限や人材要件を明確にする必要があります。富士通では、コンサルティング会社のノウハウも活用しながらこれを定めました。これにより役割分担が明確になり、社員が自分の望むレベルに就くにはどんな経験・成果が必要か確認できるよう公開する予定です。


人員計画も変わりました。従来は全社の採用数を年初に決めて、人事が各本部に統制的な配分を行っていましたが、本部ごとに権限を移譲するスタイルに。本部が必要人数を決めて採用を含む人材リソースマネジメントをするようになりました。

また、社内公募のポストも大幅に拡大されています。従来は組織側で配置転換や昇格を計画していましたが、社員の自律的な挑戦を促すのが狙いです。
「ポスティングが盛んになれば、将来性のある事業や、やりがいのある職場に人が流れていきます。ビジョンややりがいのない部門からは人が離れていくというように、会社のなかで市場原理が働きます。
各組織が危機感を持って自組織のビジョンや仕事のやりがい、成⾧の機会を示さないといけないという意識を持って取り組むようにしています。2021 年 4 月に新任幹部社員登用を想定したポストについて10 月に社内公募したところ、予定数の 1.5 倍の方が手を挙げました。従来、新任幹部社員登用は上司の推薦と役員面接で決めており、不合格になる人は少なかったのですが、これからは不合格も珍しくなくなる反面、何度でもチャレンジできるようになったのです」と平松氏は語りました。


社員教育も、自律性を求めるものになりました。従来は標準的な成⾧モデルを想定した階層別の研修を実施していましたがこれを廃止。「Fujitsu Learning Experience」というスマホでもアクセス可のオンデマンド学習の場を用意し、成⾧スピードや学ぶ内容の多様化に合わせた学習ができるようになっています。


そして、上司と部下が定期的に対話をする 1on1 ミーティングも推進されています。ちょうどコロナ禍でコミュニケーションに対する懸念が出た時期に導入され、オンラインで手軽に実施されるようになりました。


以上のようなジョブ型人材マネジメントの導入に伴い、本部⾧が組織や要員について主体的に考えることが増えました。人事は本部⾧に丸投げをするのではなく、ビジネスパートナー(HRBP)として一緒に取り組むことが求められているのです。平松氏は「従来の人事部は、役割に応じた担当がありましたが、人事の業務を標準化して、HRBP を 30 名指名し、各部門⾧やグループ⾧に割り当てています。コンサルティング会社とも相談しながら、私も含め HRBP について学んでいる状況です」と人事部自体の変化について説明しました。

最適な働き方を実現し、社内の文化を変えていく

富士通では 2017 年から本格的に働き方改革を進めてきましたが、このたび新たなコンセプト、「Work Life Shift」を掲げました。固定的な場所や時間にとらわれず、社員の自律性と信頼をベースとした働き方で、仕事と生活をトータルにシフトし、身体的、精神的、社会的に良好な状態の実現を目指すものです。


平松氏は「コロナ禍以前は、テレワークを積極的に活用する人は一部に留まっていました。しかし、緊急事態宣言が出された後、9 割の社員が 2 ヶ月間在宅勤務を経験。これでほとんどの仕事がテレワークでできることがわかったのです。すると、通勤に使っていた 2 時間を家族との時間や学習に充てられるようになりました」と、一斉テレワークの効果を話しました。


コロナ禍によって、固定的なオフィスに出勤することを前提とした勤務制度や手当、福利厚生や IT 環境が全面的に見直されました。2020 年 7 月 21 日以降、コアタイムや通勤定期券はなくなり、単身赴任者も 500 名ほどが自宅勤務に切り替えできました。加えてテレワーク環境整備補助費として毎月 5000円を支給するスマートワーキング手当を開始。さらに国内グループの全社員 8 万人にスマートフォンを支給し、業務システムとも連携し、スピーディーで効率的なコミュニケーションができる環境を整えました。


勤務する場所に縛られない働き方を実現するため、オフィスに対する考え方も大きく変化しています。Home & Shared Office(自宅やシェアオフィス)は、集中して働く場所として。Satellite Office(サテライトオフィス)は高速ネットワークを用意した快適なオフィス環境で、なるべく多くの従業員の自宅から近い場所に設置されます。そして、Hub Office(ハブオフィス)は、リアルなコミュニケーションを推奨し、コラボレートやチームビルディングを目的とした環境です。富士通では、ハブオフィスとサテライトオフィスの面積を今後 2 年間で現状の 50%程度に段階的に削減していくとしています。

変革を成し遂げるために、人事部門がやるべきこと

続いて平松氏は、一連の制度改革において現在認識している課題として、「ジョブ型人事制度は目的でなく手段である」ことを社員に理解してもらう必要があるとし、「適所適材、ダイバーシティ向上、エンゲージメント向上、組織風土改革など、今回の人事制度改革がどのように影響していくか、リアルなデータ、社員サーベイや外部の評価などから、適切な運用であるかを確認・共有しながら進めなければ、社員に定着しないでしょう。継続的なチャレンジをする必要があると考えています」と語りました。


次の課題は、オンラインを中心としたマネジメント・コミュニケーションのあり方です。メンバーのエンゲージメントスコアが高い上司は、部下に対する思いを言語化して伝えています。一方で、エンゲージメントスコアが低い上司は、進捗管理ばかりして、部下に対する自分の思いを伝えていない、ということが分かりました。一連の改革によって構築され始めた新しい環境、特にオンライン環境は、上司と部下の関係にいい気づきを与える機会になっているようです。


平松氏は、最後の課題として「より戦略的な人事への機能強化」について次のようにコメントし、講演を終えました。


「スピード感を持ってジョブ型の人事制度を導入したけれど、本制度は目的でなく手段。これを機能させるためには戦略的な人事にならなければなりません。ジョブ型人事制度の運用について、本当にできるのか、ポストオフという在り方に納得してもらえるのか、という不安はありました。しかし、成⾧企業であり続けるために、目指す姿としては間違っていないと思います。勇気を持って取り組むことが必要です。経営層やマネージャーから人事に対する満足度調査を実施し、彼らのフィードバックを受けて改善しながら運用していこうと思っています。」

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