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連載コラム「CHRO対談」第4弾:株式会社クレハ

組織・経営に関わる人に向けた連載コラム

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CHRO対談_vol4_cover.jpg2030年に向けて、「会社と社員の共生」を軸として
「クレハらしさ」を活かした人事変革を推進

HRエグゼクティブコンソーシアム 代表 楠田祐氏の協力のもと企画された本対談では、採用や育成、評価、働き方改革、人的資本経営、DE&Iなど、企業の人事戦略・変革に関わるテーマを扱い、ビジネスコーチ株式会社エグゼクティブコーチ本部・部長の出口がさまざまな企業の経営者や人事部門の担当者と対談を実施。企業の経営や管理職、経営企画、人事・教育などの組織・経営の業務に従事している方へ向けて、日ごろの業務やこれからの戦略策定におけるヒントをお届けします。


***

<NEWクレラップ>でおなじみの株式会社クレハは、独自技術でスペシャリティを追求する化学メーカー。温かみのある家族的な社風と、「なければツクレバ」のイノベーティブな精神で、社会課題を解決する産業素材を開発・提供しています。2030年をターゲットとする新中長期経営計画『未来創造への挑戦』では、売上成長率145%の高い業績目標を立て、最重要施策の一つに「会社と社員の共生」を掲げました。年功序列から成果型の新人事制度へと大きく舵を切って2年半経った今、経営戦略を実現するための人事戦略に何が必要なのでしょうか。躍進を続けるクレハの取り組みについて、人事総務部長の菊川しのぶ氏にお聞きします。

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執筆者

【プロフィール情報】
株式会社クレハ
管理本部 人事総務部長 
菊川しのぶ(きくかわ・しのぶ)

ビジネスコーチ株式会社
エグゼクティブコーチ本部 部長 
出口亮輔(でぐち・りょうすけ)

ファシリテーター:
HRエグゼクティブコンソーシアム
代表 楠田祐(くすだ・ゆう)

営業一筋から突然「人事」へ。現場主義とコミュニケーション力を生かす

楠田:菊川さんの前任の人事部長から、「クレハはとても家庭的な会社だ」とお聞きしています。今日は伝統的に家庭的で温かみがある社風のクレハが、人的資本経営の時代にどのように人事改革を進めていらっしゃるのか、お伺いしていきます。

出口:今年は創業80周年、おめでとうございます。最初に、クレハの事業について教えていただけますか。

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菊川:事業は大きく4つあり、自動車をはじめ様々な産業で活用されるエンジニアリング・プラスチックなどの機能製品事業、農薬・医薬品などの化学製品事業、<NEWクレラップ>や食品包装などの樹脂製品事業、そしてクレハグループで行う建設、エンジニアリングなどの関連事業です。

出口:我々消費者には<NEWクレラップ>のイメージが強いですけれど、BtoBの領域が多いのですね。菊川さんは、人事のご経験が長いのですか。

菊川:いいえ、人事経験はたったの2年で、人事制度はズブの素人です。28歳の頃にクレハに転職してきて、それ以来、クレラップを取り扱う包装材事業部で25年近くずっと営業でした。それがある日突然、社長に呼ばれて、「いわきで人事を見てこい」と言われたのです。いわき事業所は当社の主力生産拠点です。クレハグループ全体の従業員は約3500人、いわき事業所とその周辺に約2500人がいて研究開発や製造を行っています。そのいわき事業所の人事部長になりました。

出口:いきなりだったのですか? もともとそういう気配はあったのですか。

菊川:ありませんでしたね。ところが、いわきの人事は2年で終わり、また包装材事業部に戻っていろいろな立て直しをするようにと言われて、「人事はクビになったんだな」と思っていたら、この4月1日に社長から「本社の人事をやれ」と言われました。

出口:抜擢ですね。

菊川:とんでもありません。2年間のいわきでの人事は主に工場の労務管理でしたから、人事制度に関わることはほとんどありませんでした。

出口:今回、人事総務部長になられるにあたって、どういうご期待があったのでしょうか。

菊川:はっきりとは伺っていませんが、当社はおかげ様で今年で創業80周年で、いわゆる古い体質のところもある。「素人の方が、枠に縛られないだろう。いろいろ変えてみろ」と言われました。

楠田:日本の製造業の歴史は140年前の渋沢栄一から始まって、鉄道や自動車産業で発展してきました。そうした製造業で入社以来人事一筋の人には、自分たちが築いてきた仕組みをなかなか壊せない。ですから今、第4次産業革命の時代で、菊川さんのように他の職種から人事に来られる方々が結構いらっしゃる。改革者ですよ。

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菊川:そうなれたらいいですね。

楠田:菊川さんならなれると思いますよ。いわき事業所での初めての人事にあたって、何か工夫されたことはありましたか。

菊川:新卒で入社すると製造現場で2,3か月間、三交代勤務をするのですが、私は中途入社なのでそうした経験がありませんでした。なので、いわきに行ってすぐ、各プラント1日ずつでしたが、ヘルメットをかぶって交代勤務をやらせてもらいました。現場を知らないで人事はできないじゃないですか。わずかな日数でしたが、大変いい経験になりました。

出口:人事が現場をわかっていることが大切ですね。2年間の人事経験を振り返って、今に活きていることはありますか。

菊川:上司からは「コミュニケーション能力が高い」と言われます。営業時代は、顧客とのコミュニケーションを通して潜在ニーズを仮説立て、課題を解決するという事の繰り返しで培われたと思っています。人事では、その顧客が従業員に置き換わったと捉えています。工場やグループ会社の多くの従業員から情報収集や実態把握をする際に、営業で培ったその能力が役立ったと感じています。そういう意味で、過去の知見を活かしながら、人事施策を考えることができるのでは、と思っています。私が素人の分、生え抜きの課長たちが支えてくれていますので、そこは安心です。

楠田:社長が、人事チームを全体としてしっかり見ていらっしゃるのですね。

2021年の新人事制度施行で年功序列から役割等級へと改革

出口:クレハでは2021年に人事制度改革をされたそうですが、その目的と内容について教えていただけますか。

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菊川:制度改革の目的は、社員一人ひとりが挑戦・スピード・成長の意識をもって主体的・自律的に役割を果たして、事業環境の変化に迅速に対応できる企業風土をつくることです。従来の年功序列型から役割等級制度へと変更し、それに基づいて評価制度、報酬制度も一新しました。幹部社員の役割等級制度はそれ以前に導入していましたが、2021年には一般社員にも広げ、年齢や性別、新卒・中途入社に関わらず、役割・職務や実績に応じた処遇へと転換しました。またシニア社員の活躍のために定年を60歳から65歳に段階的に変更することとし、現在1年ずつ延長中です。

出口:新制度を開始した2021年10月から今日までの2年半で、制度を根付かせるためにどのような施策をされていますか。

菊川:例えば、マネージャーによる評価者会議を行って、評価の目線合わせをして、目標設定や評価の内容がその等級にふさわしいものになっているかを部長同士で議論しています。これで、だいぶ評価に対する公平性が高まってきました。

出口:タレントレビューをされているのですね。組織的に社員の強みや適性を把握することで、適材適所の人財配置も可能となりますし、組織全体のパフォーマンス向上が期待できますね。

菊川:定年に関しては、以前は60歳定年で継続雇用時には基本給が大幅に下がるという仕組みでした。他社様でも同様かもしれませんが、やはり継続雇用の方々のモチベーションの低下が問題でした。今後、従業員の不足を補うためにはシニアの活用が必須ですので、21年から1年ずつ定年を延ばしている最中です。

出口:60歳以上の方も、それまでと同様の役割・職務と実績に応じた処遇になって、モチベーションが上がりそうですね。

菊川:一般社員の役割等級制度と定年延長の2つに加え、教育制度も大きく改革しました。従来は会社主導の階層別研修が中心でしたが、それを大幅に減らして、従業員の自主性に基づいた教育に変えました。その代表例が、通信教育冊子です。従業員が自ら受講したいコンテンツを選んで、規定の回数を受講すると会社が受講料の全額~70%を補助する制度を導入しています。

出口:外部の通信教育を受講するのですね。どういった方が受講されるのですか。

菊川: 30代前半以下の若手の受講者が多く、年々受講者が増えています。

出口:それ以外にはなにか教育制度はありますか?

菊川:それ以外には、海外留学制度や社会人博士号取得制度など、様々なキャリア形成の支援を用意しています。

楠田:自律的なキャリア意識を持つ従業員が増えてきますね。会社の教育制度を変革することが、従業員の主体性を高めることにつながっていると思います。

キャリア採用に注力することで気づいた新卒採用者の育成課題

出口:人事制度の改革にあわせて、採用戦略も変わってきていますか。

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菊川:キャリア採用を増やしていて、数年後には採用の半数以上をキャリア採用にしていく検討をしています。2021年の新人事制度以前からキャリア採用を進めてきたのですが、キャリア入社者が既存の給与テーブルに合わないという課題があったことも、制度改革を行った理由の一つです。

出口:新人事制度でキャリア採用が一層しやすくなったわけですね。

菊川:そうです。新卒もおかげ様で優秀な人財を採用できていて、キャリア採用でも新卒と同様の学歴レベルの方を採用できています。そうした中で最近気づいたことは、新卒採用10年目の人とキャリア採用の10年目の人を比べると、キャリア採用の人の方が優秀に育っている傾向が強いことです。それが技術系だけでなくて、経理、財務、法務など間接部門でも同様なのです。ですので、やはり従来の人財育成制度に何か課題があったのではないか、と感じています。

出口:教育制度の改革をされてからまだ年数が浅いので、これからその効果がどう出てくるのか、というところですね。

菊川:それを検証してみたいと思います。

楠田:新卒の優秀な人財を採用できているのは、何か秘訣はありますか。

菊川:もちろん他社様同様で、効果の期待できる施策は一通り行っています。ただ今年実感したのは、採用担当者が会社の売り込みだけでなくて、無意識のうちに自分自身を売り込んでいて、その熱意が応募者に伝わっていたことです。応募者が最終的にクレハを選んでくれた理由として、「他の企業に比べて、採用担当者が本当に親身になってくれた」とよく耳にします。

出口:採用担当者にそのような教育をされているのですか。

菊川:人事部では伝統的にそういう採用活動をしています。つまり、応募者ひとりひとりにしっかりと寄り添う意識で対応していますね。

楠田:今、心の時代になってきていて、人を大切にする会社だということが伝わるのですね。はやり家族的なところがクレハの良いところだと感じます。

菊川:あと一つ、新卒採用で課題だと感じていることがあります。コロナ禍前の新入社員研修は2-3か月間、みっちりやって同期意識を高めていました。そして、私がいわきの人事部長時代の話ですが、ある外部講師から「クレハさんは毎年、大人しい社員を採用されますね」と言われたのです。これにはビックリしました。入社してたったの3か月しかたっていないのに、しかも“毎年、大人しい”と言われるということは、採用の段階から何かバイアスがかかっているのではないか。知らぬうちに同質な大人しい社員を脈々と採用しているのではないか、ということです。

楠田:もう少し、やんちゃな人がいてもいいかもしれないということですね。

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菊川:そうです。今年から総合職の採用面談に立ち会うようになったので、こちらも検証していきたいです。これまでの採用面接では、技術職といえどもチームでの業務なので、協調性やコミュニケーション能力も重視してきました。しかし今年は、特定の研究分野に強いが、他のことは苦手という尖った人財も積極的に採用しました。

楠田:採用された尖った人たちを現場がつぶさないように、管理職のマインドセットを変えていくことも必要ですね。

2030年中長期経営計画の達成に向けて、高度人財の選抜と育成を推進

出口:2023年から2030年にかけての中長期経営計画が動き出しています。企業価値向上とサステナビリティ経営を目指す上で、経営戦略を支える人事戦略について、概要をお話しいただけますか。

菊川:2023年からの中長期経営計画『未来創造への挑戦』のなかで、最重要施策の一つとして「会社と社員の共生」を掲げています。その実現のためには、働き甲斐の最大化や評価を含めた人事制度の充実が重要になりますが、2021年に施行された新人事制度が2018年頃から検討されてきたものだったため、現在の中長期経営計画としっかりとはリンクしていないのです。なので、新人事制度施行から2年半しか経っていないのですが、2030年の中長期経営計画の目標達成に向けてブラッシュアップしていく必要があり、今春から管理本部長の元に検討チームを立ち上げました。来年度には、ブラッシュアップ版の人事制度を施行したいと考えています。

出口:現行の人事制度で不足しているのは、どのようなことですか。

菊川:次期役員候補、次期部長候補といった高度マネジメント人財が不足していることと、研究開発の高度専門人財も育っていない、という認識があります。化学メーカーは新しい素材を世に出していかなければなりませんが、開発から上市までには10年単位の時間がかかります。直近ではPGAという微生物によって分解するプラスチックを商品化しましたが、続く商品がまだ出ていません。次世代を担う新商品の芽を増やすためには、高度専門人財の育成と確保が非常に重要であると考えています。

技術系人財の育成では、組織体制の改善も進めています。従来は全員、いわきの研究所で新商品の開発をしていましたが、東京にも研究者、開発者を配置して、マーケットにより近い場所でビジネスチャンスをリサーチできるように計画しています。これにより、いわゆるMOT視点を持った人財を育てていく事を狙っています。

出口:新事業をどう立ち上げていくか。そこには技術とともにマネジメントサイドも紐づいてくるのではないでしょうか。高度マネジメント人財の育成では、どのような点が課題ですか。

菊川:次期経営者候補になるための人財要件定義、そこが一番の課題です。若手の育成はノウハウが蓄積されているのですが、グループリーダー(課長クラス)から部長候補、部長から役員候補を育てていくのに、その人財要件が明確になっていません。経営環境があっという間に変わるVUCAの時代に、スピード感をもちつつ、次期経営者の候補を育てていくところに難しさを感じます。

出口:すでに議論されているご様子なので、ある程度整理できているのではないですか。

菊川:いえいえ、現在はまだ議論が拡散中です。あれもこれもできたらいい、となると、スーパーマンのような定義になってしまいますし。

出口:業種、業界や他社をベンチマークしながら進めているのでしょうか。

菊川:無論、同業他社の動向は注視しています。ただ、他社でうまくいっても、当社に当てはめるとそのままできないケースも多いです。クレハならではの、この会社の規模感ではどうなのかという点を常に考慮しながら議論を進めています。

出口:高度人財を育成していくにあたって、選抜に関する課題はありますか。

菊川:成果型の新人事制度になりましたが、まだ能力のある人をどんどん抜擢するまでに至っていません。たとえば、ある人が1等級上がって、その人の力量だと翌年に1等級上げても構わないのだけれど、「まだ1年しか経っていないし」と言って上げなかったりする。年功的な見方がまだ残っているので、改善していきたいです。

楠田:「まだ早い」ではなく、役員メンターを付けるなどのサポートをして、ストレッチアサインメントをすることで人が成長します。そういう仕組みを取り入れてはいかがでしょうか。菊川さんの2年間の人事部長も、ストレッチアサインメントだったと思いますよ。

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個々人の長期育成プランを策定するタレントマネジメントシステムを検討

楠田:さきほどタレントレビューをされているとのことでしたが、他社さんでは、優秀な方を他部門から引き抜かれないように隠すとお聞きします。そういう問題はないのでしょうか。

菊川:そこは無いです。隠せるほど大きな会社ではありませんからね。

楠田:それはいいですね。「かわいい子には旅をさせろ」という家族的なカルチャーで、クレハの素晴らしいところです。そこが重荷になっている会社が山ほどありますよ。

菊川:一方で、その人財を5年、10年かけて計画的に育成するプランがなくて、海外拠点のあそこで欠員が出るから誰を送ろうか、というような行き当たりばったりになっているところが課題です。

出口:一つ先だけでなく、その先の先まで含めたポジションのプランを見据えて、事業部間でローテーションができるようにしたいですね。それを目指すために、何かお考えはありますか。

菊川:人財育成計画を長期スパンで立てられるようなタレントマネジメントシステムの導入を考えています。意図的に人財を育てていく社風を醸成しないといけないと幹部クラスが認識しているので、事業部長や本部長同士がその枠を超えて人財について共通言語で話せるような仕組みを作っていきたいです。

楠田:タレントマネジメントシステムにデータを入れると、誰がベンチ入りしているのかが見える。幹部クラスの方々は、過去の経歴のなかで一皮むけた経験をいくつもされていると思います。そうした経験を何回か、ベンチ入りした人財にさせていくことですね。

菊川:はい。仕組みを作って、そこに魂を入れていきたいと思います。

ダイバーシティ、エンゲージメントを高めて「会社と社員の共生」の実現を目指す

出口:2030年のターゲットは、逆算して3年ぐらいは最後のドライブをかけに行く時間と考えると、あまり時間はないですね。ダイバーシティやエンゲージメントに関しても力を入れていらっしゃいますか。

菊川:女性活躍に力を入れています。化学系はもともと女性の応募が少ないのですが、25年入社の新卒では女性を約4割採用予定です。女性の管理職はまだ8%ですが、製造現場でも女性のグループリーダーが誕生しています。一方で、家庭用品の<NEWクレラップ>を取り扱っている包装材事業部では女性社員の比率が高いですね。

出口:新卒で4割採用できているのは、頑張っていますね。エンゲージメントについてはいかがですか。

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菊川:
昨年からサーベイを始めて、スコアは悪くはなかったです。ただ、日本の製造業全般で言われている製造現場のエンゲージメントが低いのは、弊社も同様でした。

出口:その理由は、残業や上司・部下のコミュニケーションなどですか。

菊川:製造現場では、非定常業務以外は残業はほとんど無いですし、コミュニケーションも特に問題はないと捉えています。ただし、化学プラントにはエアコンが無いので、夏は大変暑くなり、冬は極寒となるので、快適とは言い難いですね。また、化学プラントなので何かあると大事故になるので、そのプレッシャーも高い。そうした労働環境面がスコアに影響しているのではないかと考えています。ハード面では熱中症対策や防寒対策を万全にすることや、設備の安定操業を維持する事などが大事となりますが、我々人事部門としては、ストレス解消につながる施策などを実施する事でメンタルヘルスを改善して、製造現場のエンゲージメントを上げていくことが喫緊の課題です。

楠田:エンゲージメントと言えば、クレハでは新入社員が長距離を歩いていましたよね。あれはエンゲージメント向上に役立つのではないですか。

菊川:耐久徒歩訓練といって、新入社員研修の締めくくりに1日約30~50キロ、3日間、福島県内を歩き、いわき事業所正門にゴールします。新入社員4-50人がいくつかのグループに分かれてみんなでひたすら歩く。なかには足のマメがつぶれて歩けなくなった人を背負ったり、荷物をもってあげたり。最後は正門の前に先輩社員が大勢並んで、みんなでワーッと拍手して迎えると、感激して泣き出す人もいます。

出口:まるでドラマですね。

菊川:先頭に立つのは、前年の新入社員の一人。その人は、耐久徒歩訓練の企画や先導を一手に担うのです。その先導者が最初に達成感で泣き出しますね。クレハではこれを伝統的にやってきたのですが、コロナで中止になりました。

楠田:一人っ子が多いなか、こうした家族的なイベントは記憶に残るし、リテンションにも効くと思います。復活する予定はないのですか。

菊川:教育に時間をかけ過ぎているのではないかという仮説もあり、今は早期育成を目的として、早めに職場に配属し、現場に入ってからのOJTに力を入れています。コロナ禍以降、耐久徒歩訓練を経験していない社員が数年分いますので、エンゲージメントへの影響など様々な検証をして、復活させるか検討したいと思います。

出口:最後に、2030年中長期経営計画の達成に向けた人事としての意気込みをお聞かせください。

菊川:業績目標達成のための人事制度・教育制度を改革するとともに、社員のエンゲージメントを高めて、重要施策である「会社と社員の共生」を人事としてしっかりサポートしていきたいと思います。

楠田:クレハの今後の成長に期待しています。本日はありがとうございました。

20240717__MT_5626集合.jpg                        (キャプション) 左:出口亮輔氏  中:菊川しのぶ氏  右:楠田祐氏




(執筆者:丸島 美奈子 / 写真提供者:武田 昌盛)


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