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【HRエグゼクティブサロン 第15回】
ライオンにおけるワークエンゲージメントの取り組み

ライオン「社内外の関係性向上を軸とする働きがい改革」で、持続的成長を遂げる組織風土を創出

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ライオン株式会社では、Vision2030の成長戦略「変革を実現するダイナミズムの創出」において、一人ひとりの従業員が成長過程で相互に刺激し合い、「自律した個」の躍動によって組織全体に変革の波(ダイナミズム)をもたらすことを目指しています。そのために、パーパス「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」の理解と共感を起点とする「コーポレートブランディング」を進め、エンゲージメントの向上につなげてきました。今回は、同社で働きがい改革を推進する小池 陽子 氏をお招きし、持続的成長を実現するライオンの人事変革について、講演を行いました。

執筆者

ビジネスコーチ株式会社 セミナー事務局

登壇者のご紹介

<登壇者>
小池様お写真2.jpgライオン株式会社 執行役員 人材開発センター部長
小池 陽子


1987年入社。広報や薬品事業のブランドマネジャー、ビューティケア事業部長を経て、2020年より現職。2019年より開始した「ライオン流働きがい改革」を継続推進中。                                                                                                                      

                                                                                                                                  

                                                                                                                        

<モデレーター>
kusuda.jpgHRエグゼクティブコンソーシアム 代表
楠田 祐 氏


NECなどエレクトロニクス関連企業3社を経験した後、ベンチャー企業を10年間社長として経営。2010年より中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクー ル)客員教授を7年経験した後、2017年4月より現職。2009年より年間数百社の人事部門を毎年訪問。専門は、人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。多数の企業で顧問なども担う。2016年より人事向けラジオ番組『楠田祐の人事放送局』のパーソナリティを毎週担当。シンガーソングライターとしても活躍。著書に『破壊と創造の人事』(Discover 21)、『内定力 2017 ~就活生が知っておきたい企業の「採用基準」』(マイナビ)などがある。

歯磨き習慣がアジア地域にも広がり、オーラルケア市場も大きく成長

2022年、創業131周年を迎えたライオン株式会社は、国内13拠点、海外9拠点を有し、オーラルケア、ファブリックケア、ビューティケアなどの一般用消費財事業のほか、産業用品事業や海外事業を展開しています。同社は、「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」をパーパスとして掲げ、単に商品を提供するだけでなく、消費者の健康に寄与する生活習慣の普及に努めてきました。


例えば、オーラルケアに関しては、小学生への歯磨き指導や歯磨き大会の開催を通じ、歯磨きの習慣を定着させ、その習慣はやがてアジア地域にも広がりました。50年前に比べると、1日の歯磨きの回数は約4倍に増え、小学生の虫歯の比率は20%まで減少。虫歯予防への意識の高まりとともに、オーラルケア市場も大きく成長しました。


しかし、快適で健康的な生活に貢献するライオンの姿勢は、消費者だけに対するものではありません。小池氏は、「当社は創業当初から従業員の幸福の追求にも力を入れてきました」と言います。

従業員を思う創業者の経営姿勢がライオン流「働きがい改革」の原点

過去の資料を紐解くと、創業者の小林 富次郎 氏がライオンの前身、小林富次郎商店を営むに当たって、従業員がこの店で働くことで幸せを感じ、さらに従業員の親にも喜んでもらえるような経営を目指していたことがわかりました。小林氏は、従業員のために社内で夜学校を開き、男子部では経営学、女子部では裁縫の授業などを実施します。


女子部で裁縫を教えたのは、店で働く女性が花嫁修業をする時間もなかなか取れないため、その機会を提供しようとの配慮から。「従業員を思う創業者の経営姿勢が、我々の働きがい改革の原点にもなっています」と小池氏は語りました。


ライオンの働きがい改革は、2021年にスタートした中長期経営戦略フレーム「Vision2030」の重要テーマに位置づけられています。Vision2030では、3つの成長戦略が掲げられており、そのうちの「変革を実現するダイナミズムの創出」を実現するためのベースとして、人・組織・思想を重視。働きがい改革やダイバーシティ&インクルージョンの推進を通じ、従業員エンゲージメントの向上を図り、持続的に成長する企業へと変革することを謳っています。

資料1.png働きがい改革の導入に当たっては、個人と会社が貢献と支援の関係にあることが「良い会社」の条件であると定義づけ、個人が活き活き、ワクワク働くことができる「働き手のHappiness」が「会社のHappiness」をもたらすとの認識の下に取り組みがスタート。掬川社長自ら、「働き手がハッピーでなければ、会社は持続的な成長も革新性や付加価値の創出も成し得ない」とメッセージを発しています。

本音が言える環境が心理的安全性を生み、働きがいを高めていく

ライオンは、企業人としても家庭人としても自己成長し、充実した人生を送れるよう、ワークエンゲージメントの実現に向けて働きがい改革を進めています。改革のベースとなるのは、従業員の健康であり、「GENKIアクション」という取り組みによって、健康増進のサポートをしています。


従業員の健康が維持された上で取り組むのが、「ワークスタイル」「ワークマネジメント」「関係性の向上」です。ワークスタイルは、いわゆる働き方改革で、従業員の自律性を重んじ、それぞれが自分に合った働き方や勤務時間、場所を選べるような仕組みをつくります。ワークマネジメントは、個々人の多彩な能力を最大限に発揮してもらうための取り組みで、講習や研修などの教育の機会を拡充します。


そして、ワークエンゲージメントの実現に欠かせないのが、関係性の向上です。働きがい改革を進めるに当たって、社内調査を実施したところ、上司と部下の良好な関係が働きがいの向上に大きく寄与していることがわかりました。上司と部下がお互いに認め合い、尊重し合える関係性ができている職場は心理的安全性が高く、働きやすい職場だと言えます。小池氏は、「自分の知らないことがあれば遠慮なく聞け、臆せず反対意見を言うことができ、失敗よりも挑戦することを評価し、異なる考え方も受け入れてもらえる。そのような本音を言い合える関係性がなければ、社員の働きがいを高めることはできません」と、その重要性を強調しました。

資料2.png

60時間に及ぶ関係性向上プログラムでマネジメント層をアップデート

人事部門では、2021年から関係性向上プログラムを実行してきました。このプログラムの対象者は、全マネジメント層600名。昨今の若い世代は、価値観や仕事・会社に対する考え方も大きく変わってきています。「組織としての成果を上げるには、この若手世代のモチベーションを高めることが不可欠です。そのためにはマネジメント層に対して、“人のマネジメント”スキルのアップデートが急務ではないかと考えました」と小池氏。本音を言える環境づくりに向けて、傾聴や共感などの基本スキル習得に始まり、さまざまな関係性を向上させるプログラムが組まれました。


このプログラムには、7つのステップがあります。最初の「自分との関係性」では、自分はなぜこの仕事をしたいのかを内省し、次の「メンバーとの関係性」では、内省に基づいて自分の役割やチームメンバーとの関係性を再構築し、続く「チーム・他部署との関係性」をより良いものにしていきます。この3つの関係性は、心理的安全性の土台となるもので、これに関するスキルを体得することで、働きがいのある職場のベースをつくることができるのです。


しかし、心理的安全性を確保するだけでは、組織を改革し成長させていくことはできません。社会との関係性や未来との関係性を高めなければ、将来のビジョンを描くこともできないため、それを実現するための続く4つのステップがプログラムの後半に設けられています。これらのステップでは、上長との1on1ミーティングをはじめ、社会活動を推進する識者による講演なども実施し、最後に一人ひとりが成果発表を行います。

資料3.png

全プログラム終了までには約60時間、延べ6ヶ月に及ぶ日数がかかり、これまでに受講を終えたのはマネジメント層のほぼ半数です。受講者本人にとってもかなりの労力を要するプログラムですが、満足度は非常に高く、受講後に部署を超えてオンラインで語り合う場を自発的につくったり、プログラムを通じて得た気づきや思いを職場で語ったりするマネージャーも出現。「受講された方の影響が、チームメンバーにも及び始めていて、関係性向上プログラムが組織風土を変えていくきっかけになるのではないかと期待が膨らんでいます」と、小池氏もその成果に確かな手応えを感じています。

従業員の健康増進と柔軟な勤務形態で、誰もが快適に働ける職場へ

一方、働きがい改革を下支えする「GENKIアクション」に関しては、3大がん対策として精度の高い検査体制を整備するとともに、禁煙を支援。メンタルヘルス対策にも力を入れ、ストレスチェックや意識調査などを実施して、従業員の心のケアに努めています。


また、ライオン独自の取り組みとして、予防歯科に力を入れており、プロケアの受診やブラッシングなどのセルフケアを促進中。さらには、「GENKIナビ」という携帯アプリも提供し、健診結果の見える化や生活習慣に基づいたアドバイスを行うなど、最新のツールを駆使して健康情報を発信しています。


働き方改革を担う「ワークスタイル」においては、服装の自由化とともにテレワークの拡大を図り、従業員が自由にテレワークの頻度を決められる体制を整えました。同時に、勤務時間の自己裁量を拡大するフルフレックスも導入。勤務中に病院に行ったり、子どもを迎えに行ったりするために、短時間外出することができる中抜け制度なども整備されました。他方、業務柄、フレックスを適用しづらい生産ラインの従業員に関しては、育児や介護に柔軟に対応できるよう、時間単位有給休暇制度を設けるなど、誰にとっても働きやすい環境づくりを推進しています。

主体的な学びを促進し、コンピテンシー開発でパフォーマンスを向上

多彩な能力の発揮を目指す「ワークマネジメント」については、「キャリアデザイン・サポート」「ライオン・キャリアビレッジ」「多面行動能力測定」などの施策を展開しています。キャリアデザイン・サポートでは、従業員が自律的にキャリアを設計できるよう、専用窓口を設けて情報提供やキャリア相談に対応するとともに各種セミナーを実施。また、キャリアの幅や能力の向上につながる副業制度も拡充しました。


ライオン・キャリアビレッジは、4000を超えるコンテンツを揃えた「eラーニング講座」と、専門知識を持つ従業員や社外専門家がファシリテートする少人数制の「ケース討議」を複合した学びの場。対象者の60%以上がWeb コンテンツを受講し、そのうちの20%が討議形式プログラムにも参加するなど、多くの社員に活用され、主体的な学びの習慣化に貢献しています。


多面行動能力測定では、コンピテンシー開発を主眼とし、従業員個人と上長を軸にそのプロセスを進めていきます。まずは個々人が、自分が目指すべき姿を思い描き、現在の自分とのギャップを理解した上で、重点コンピテンシーを設定。上長は1on1などを通じて、個々人の重点コンピテンシーをいかに伸ばしていくかを本人と話し合い、実際の行動を観察し、折々にフィードバックしながら目指す姿に近づけるようにサポートします。小池氏は、「上長が部下と良好な関係を築いた上で、人材育成の意識を持ち、部下のコンピテンシーを高めていくことが、チーム全体の生産性を高めるカギとなります」と語ります。

資料4.png

副業の拡大により、更なるキャリアアップに導く循環が生まれる

ここまで紹介したように、関係性の向上は、働きがい改革のいずれの局面でも必須のテーマになっていますが、キャリアデザイン・サポートの施策にも盛り込まれた副業も、関係性を高める上で重要な役割を果たします。副業は、社外とつながるチャンネルであり、それを活用することで従業員の視野が広がり、視座が上がるとの認識から、ライオンでは副業を従来の許可制から申告制に変更。その結果、現在副業している社員は延べ145名に上り、副業の文化が社内に浸透してきました。


副業の内容も、社員が自分で見つけてきた案件を持ち込むケースばかりではなく、会社側でも内閣府の「プロフェッショナル人材戦略事業」に参画して地方企業の案件とライオン社員をマッチングさせる仕組みをつくっており、多様な業務を経験する機会が得られています。「社外で自分の能力を試すことによって、別の視点から今の自分のコンピテンシーやタスクの達成状況を見つめ直し、新たな気づきを得て更なるキャリアアップに向かうという良い循環ができつつあります」と小池氏は述べました。

資料5.png

関係性を高めるためのもうひとつの施策として、ライオンでは「タレントパレット」という社内SNSのようなシステムを導入しています。これは、個人のキャリアや趣味・特技、熱中していることなどをイントラネットで公開し、社員の誰もがその情報を自由に閲覧できるシステムです。タレントパレットで自己アピールしたり、自分が思い描くキャリアパスを歩んでいる人を探したり、あるいは同じ趣味を一緒に楽しんだりするなど、社内のさまざまな人と仕事だけでなくプライベートでもつながることができます。


小池氏は、「テレワークの普及によって人と出会う機会が減る中、タレントパレットはそれを補完するツールになると考えます。今後は、タレントパレットの内容をさらに充実させ、イベントなども開催して社員の関係性を一層高めていきたい」と最後にコメントし、講演を締めくくりました。

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