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【HRエグゼクティブサロン 第8回】
シスコシステムズに聞く、ワークエンゲージメントを
高める企業価値

「働きがいのある会社」(2021年版 大規模部門) NO.1に輝いたエンゲージメントを高める取り組みとは

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Cisco Systems, Inc.は米サンノゼ州に本社を置く、ネットワークやセキュリティ関連製品の専門メーカーで、90年代にインターネットの礎を築いた会社のひとつです。同社の日本支社、シスコシステムズ合同会社(以下、シスコ)は、2018年・2021年に「働きがいのある会社」大規模部門1位を獲得し、人事部門でも優秀な成績を誇っています。第8回HRエグゼクティブサロンでは、同社 執行役員 人事本部長 宮川氏をお招きし「働きがいのある会社を目指して〜従業員エンゲージメントを高める仕組み〜」というテーマで講演を行いました。

執筆者

ビジネスコーチ株式会社 セミナー事務局

登壇者のご紹介

<登壇者>
シスコシステムズ合同会社 執行役員 人事本部長
宮川 愛 氏


2003年に外資系IT企業に人事として入社後、日本国内人事やアジア太平洋地域の人事(主に人事企画業務・報酬制度・M&A等)に従事。2014年3月にシスコ入社後、部門担当人事(HR Business Partner)として営業組織の組織強化に携わる。2016年8月より現職。


<モデレーター>
HRエグゼクティブコンソーシアム
代表楠田 祐 氏


NECなどエレクトロニクス関連企業3社を経験した後、ベンチャー企業を10年間社長として経営。2010年より中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクー ル)客員教授を7年経験した後、2017年4月より現職。2009年より年間数百社の人事部門を毎年訪問。専門は、人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。多数の企業で顧問なども担う。2016年より人事向けラジオ番組『楠田祐の人事放送局』のパーソナリティを毎週担当。シンガーソングライターとしても活躍。著書に『破壊と創造の人事』(Discover 21)、『内定力 2017 ~就活生が知っておきたい企業の「採用基準」』(マイナビ)などがある。

これからは「ワクワク感」を持った人材が必要

シスコの主戦場であるIT業界は変化が激しいことで有名です。AIやロボットといったテクノロジーの力によるDX (デジタルトランスフォーメーション)がどんどん起こり、さまざまな市場でUberや Airbnbといった今まで見たことのなかったような企業が、誰も聞いたことのなかったビジネスを作り上げ、市場におけるパラダイムシフトが起こっています。


今まで優秀な人材とは、知識専門性がある、オペレーション能力が高い、上から言われたことを着実に遂行できる人たちと言われましたが、AIやロボットが活躍するようになると、今後はそれらにできないことを得意とする人たちが重要になります。シスコは、データと人の感性を繋げて、さまざまな情報の中から人に響くものは何なのかを感じられる人、新しいものやアイデアを自ら想像し生み出せる人、チームの能力をいかに最大化できるか、チームにどう貢献できるかといった観点で考えられる人、このような人材や能力の育成が重要になると考えています。

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そして、宮川氏は「これら3つの能力に共通していることは、『ワクワク感』やチームへのエンゲージメントが大切だということです。新しいアイデアは自分がワクワクしているときに思いつきますし、チームのために働こうと思えるから、会社に働きがいやエンゲージメントが生まれ、会社を良くしようといった気持ちを持てるわけです」と示唆します。


仕事の上でのワクワク感とは、働きがいと置き換えるとわかりやすいでしょう。つまり会社においては働きがいを高めることが重要です。


では、働きがいやエンゲージメントを高めるためにシスコでは何を実践しているのでしょうか。人材というと、どうしても人事制度に注目しがちですが、その前に、そもそもシスコは何を考えているのか、企業理念は何かを見てみましょう。

シスコの基本理念は、「多様な理解」によって「全てに開かれた未来」を作ること

シスコが掲げる基本理念の根底には企業文化があります。

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宮川氏は、シスコの企業理念とその構造について次のように話しました。


「『Conscious Culture』(コンシャスカルチャー)は企業文化を意味し、自己理解、他者への理解、そして自分が他者に与える影響について目を向けて一人ひとりが理解し、意図的に行動することによって、社員全員にとって最高の体験を生み出すことをカルチャーとしています。

『Our Purpose』(アワーパーパス)は企業の存在意義を意味し、全ての人に開かれた未来を提供することを目指しています。例えば、ネットワークの力を使って、『地球上のどこでも同じレベルの医療や教育を受けられる未来を創造しよう』『誰も取り残さない未来を作ろう』という意味が込められています。カルチャーを大切にしつつパーパスを目指すのが企業理念になります」

シスコの行動起点はすべて、この企業理念がベースにあります。

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宮川氏は、このカルチャーを理解してもらえるように、セミナー参加者に詳しい説明をしました。

「この企業理念を実践する上で、大切にしている3つの点があります。ひとつ目がトップダウンとボトムアップ。トップダウンは社長の旗振り、コミットメントです。会社がどこに向かっていくのかは、社長のコミットメントで明確にする必要があります。ボトムアップは下から意見を上げることです。自分の意見が経営に反映されている実感を作ることで、真の全員参画型の企業が作れます。

2つ目は、一人ひとりの役割と期待値を明確にすることです。3つ目は、最初から完璧を目指さない、アジャイルモデルでの前進です。先が見えにくい時代、小さく始めて小さな施策検証を繰り返していく、このプロセスが何よりも重要です」

シスコにおける、働きがいを支える3つの要素とは

企業理念を実践するには、シスコは働きがいを高めることが重要だと考えています。そこでシスコは、働きがいを支える基本的な要素を規定し、そこに注力することを目指しました。その基本的な要素は3つあります。画像20.jpg

1.多様性を認めてお互いに尊敬し受容し合うカルチャー(企業文化)
2.カルチャーや基本理念の3ポイントを高めるためのプロセス(仕組みや制度)
3.テクノロジー(技術)


これら3つの要素を、個別に詳しく見てみましょう。

働きがいの要素1「カルチャー」:多様性を認め受容する

1つ目の「多様性を認めてお互いに尊敬し受容し合うカルチャー」(企業文化)は、先の基本理念にあったコンシャスカルチャーと同等の意味です。なぜカルチャーと働きがいが関連しているかというと、率先して他者を受容することは働きがいの向上にもつながると考えているからです。


さらに他者を率先して受容できるように、シスコではPeople Dealと称して、会社としてやらなければならないこと、社員一人ひとりが約束をしなければいけないことを明確に定義しています。企業理念にもある「一人ひとりの役割と期待値を明確に」と同等の内容ですが、明確にすることが、働きがいの向上にも役立つと考えられています。People Dealに関する具体的な活動としては、社員向けの行動指針があります。
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また、カルチャーの「多様性を認めて」では、人種、性別、出身といった個々人の違いを認め合うダイバーシティの考えを取り入れています。2011年には、ここにインクルージョン、積極的に互いを受容し合うという言葉も加えて、意味合いをさらに深めました。現在は、インクルージョン&コラボレーションと表現を変え、積極的にお互いの知恵や違いを受容し合って効果的にコラボレーション、つまり協業をすることで会社としてのイノベーションを起こそうというところまで成長しました。

働きがいの要素2「プロセス」:理念に沿った人の評価や人の育成

働きがいを支える3要素のふたつ目、プロセスとは仕組みや制度を意味し、具体的には社員の力量、パフォーマンスの評価や人材育成といった人事制度そのものともいえます。
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シスコでは、ビジネスの成果はもちろんですが、どれだけ基本理念や行動指針に沿って行動したか、チームや組織に対してどんな貢献を行ったかを含めてパフォーマンスと判断し、社員を評価します。つまり基本理念のカルチャーで示している「全員にとっての最高の体験」を目指さないと、パフォーマンスしたと評価されません。案件に上手に対応しても、その成功に関する情報を皆にシェアしなければ、その分評価は下がってしまいます。


加えて、パフォーマンスを発揮しやすくするために「ジョブ制度」という、業務に対する個々人の役割をしっかり明確にする仕組みを用意しました。給与はパフォーマンスに比例する、いわゆる実力主義で、営業職では、固定給とインセンティブの比率は50対50ぐらいになっています。

人材育成については、1対1を基本として上司とメンバーのコミュニケーションを非常に重要視しています。メンバーのパフォーマンスをより良くするためにはどうすればいいのか、どういうサポートができるのか。上司はメンバーに対して高い頻度でコミュニケーションをとっています。

この対話の中では、メンバーの強みにフォーカスして、それを伸ばす点に注力しています。一人ひとりの一番強いところに最大限フォーカスをすることで、その力を最大化でき、ひいてはエンゲージメントの向上につながると考えるからです。


また、評価方法も変えました。年度末に5段階評価を行っていたのを廃止し、例えば年度の初月に、「この人はこのままだと2の評価だな」と思ったら、2を3や4にするために何ができるのか、そこに力を注ぐように変えました。つまり、過去の実績ではなく未来の姿を見るように変えたのです。そのため、シスコでは5段階という人事評価はなくしました。

シスコのベストチームに見る強さの理由

「シスコが一人ひとりの強みにフォーカスするには理由がある」と宮川氏は説明します。グローバルなシスコ全社の中で、最も良い成果を上げていて、人間関係も良いベストなチームをいくつかピックアップし、それらのチームが持っている特徴は何なのかを探ったところ、ベストチームに共通した特徴の1位は「自分の強みを毎日生かせていると本人が感じている」でした。2位は、「心理的に安全性を得られるチーム内の信頼関係」。そして3位は「共通の目的や価値観をチームの中で共有をしている」となりました。これら3つの要素を持っているチームこそが、人間関係も良く一番成果を上げているのです。


別の調査では、自分がワクワクして、得意と思っている部分に投資をすることが、何よりも大きなリターンを生むことがわかりました。宮川氏は「マネージャーの役割は、5人のチームだったら全員を100%にして500%にすることよりも、個々の強みを活かして合計で600%、700%の力に変えていくことだと考えています」と述べました。

働きがいの要素3「テクノロジー」: いつでもどこでも変わりなく仕事ができる

働きがいを支える3要素の3つ目は、テクノロジーです。テクノロジーによって、いつでもどこでも誰でも、どのようなデバイスでも働ける環境を手にすることができ、それによってさまざまなメリットが生まれています。
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在宅勤務なら、通勤時間の削減ができ、さらに自分なりに自分の力を最大限発揮できるような働き方を選ぶことも容易に行えます。日本では社内会議を設定するまでに約13時間/月に時間を費やしているという調査がありますが、オンラインなら、この時間を相当短縮できます。出張や外出時でも、全く同じように働くことができれば隙間時間を有効活用できます。効果的なコラボレーションというところでは、シスコのコミュニケーションツール「Cisco Webex」の機能向上によって、今まで以上にオンライン会議の双方向感を増すことができます。

働きがいがもたらす効果。 「仕事に行くことが楽しみ、自分らしさを体現するためのひとつが仕事」

このようにシスコは働きがいの3要素をしっかり支えることを率先して行っていますが、その結果はしっかり表れています。
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シスコのエンゲージメントを見てみると、シスコで働くことを誇りに思う社員が90%以上、育児休業からの復帰率が100%、復帰までの期間も平均して7. 8ヶ月と、1年未満で職場に戻ってくるという驚異的な状況になっています。また信用、尊重、公平、誇り、連体感といった部分でシスコは、2020年、働きがいのある会社選出の企業平均をすべて上回り、社員からは、「仕事に行くことが楽しみ」「自分らしさを体現するためのひとつが仕事をすること」といった声も出ています。

コロナ禍におけるシスコの取り組み

コロナ禍のシスコでは、働きがいの維持・向上のために、経営層が2週間に1度の頻度で「社員の安全・健康が私たちの第1プライオリティです」といった、全社に向けてのメッセージを発信し続けています。トップが主体的にコミュニケーションをとり続けることで、社内に一体感が生まれ、社員との信頼関係を再構築できたといいます。

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オフをどう過ごすかがオンにも影響を及ぼすという考えのもと、仕事以外の自分の一面を開示できる場を作りました。オンラインでの遊び、飲み会、家族も参加するイベントなど、お互いのつながりを深める取り組みが行われています。

働きがいを高めるためには、方法論とそれを支える理念が重要

シスコは、自社の理念を実現するために働きがいに注目しました。そして、働きがいを向上させるために3つの要素を規定し、そこにフォーカスしました。その努力の結果は、社員からの「仕事に行くことが楽しい」という声からも、大きな成功を得られたといえるでしょう。


働きがい向上のための5段階評価廃止などの対策は、実践しようと思えばできなくはありません。宮川氏は、最後に基本理念の大切さを念押しし、講演を終えました。


「冒頭にご説明した基本理念に関わる3つ、『トップダウンとボトムアップ双方向のアプローチ』『一人ひとりの役割と期待値を明確化』そして『最初から完璧を目指さない』を、働きがいを高める基本理念として弊社は非常に重要視しています。社員の働きがいを大事にしたい企業は、自社の企業理念を思い起こし、それを実現するために必要な働きがいの要素は何か、改めて考えてみてはいかがでしょうか」

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