- 1on1ミーティング定着支援プログラム
- クラウドコーチング
藤田観光株式会社
(1on1 x HRテクノロジー)
1on1×HRテクノロジーで社内風土改善と離職防止を実現 ~東京ベイ有明ワシントンホテル1年の取り組み~
1on1×HRテクノロジーで社内風土改善と離職防止を実現
~東京ベイ有明ワシントンホテル1年の取り組み~
クライアント企業情報
藤田観光株式会社
ビジネスのニーズに応える「ワシントンホテル」や観光のニーズに応える「ホテルグレイスリー」、ミレニアル世代をターゲットにした「ホテルタビノス」を運営する事業、ホテル椿山荘東京をはじめとする、婚礼・宴会施設やラグジュアリーホテル、ゴルフ場などを運営する事業、「箱根小涌園 天悠(てんゆう)」、「箱根小涌園ユネッサン」をはじめとする旅館、リゾートホテル、グランピング、レジャー施設などを運営する事業を持つ会社。
1955年11月7日設立。資本金1億円。従業員数1,158名(2021年12月31日現在)。
(※事例に記述した数字・事実はすべて事例取材当時に発表されていた事実に基づきます。数字の一部は概数、およその数で記述しています)
ご担当者様
藤田観光株式会社 人事グループ 部長 採用・教育担当 橋本香織氏
東京ベイ有明ワシントンホテル 総支配人 櫻井浩幸氏
お客様の課題・ご要望
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・1on1ミーティングの定着率向上
ビジネスコーチの提案・サポート
- ・1on1研修
- ・1on1アドバイザリー
- ・社内コーチ養成研修
現場ヒアリングで見えた1on1ミーティングが浸透しない理由
まず、東京ベイ有明ワシントンホテルでの1on1導入プロジェクトを支援したビジネスコーチ株式会社・栄木氏から、「1on1ミーティング導入がうまくいかないのはどんなケースか」をまとめたプレゼンテーションが行われた。
ビジネスコーチ株式会社は、「行動変革・行動定着」までをサポートすることをミッションとし、ビジネスコーチングのメソッドを通じて、約15年間で500社以上の企業・組織の生産性向上に関わってきたビジネスコンサルティングの専門企業だ。とりわけ、1on1ミーティングの導入支援では数多くのケーススタディを保有している。
企業が1on1ミーティングを導入する目的は二つある。「生産性向上」「自律型人材の育成」といったポジティブな理由によるものと、「社内コミュニケーションの活性化(組織風土改善)」「離職防止」など、直面している課題をなんとかしたいという、どちらかといえばネガティブな理由によるものだ。
「ただ、実際に1on1ミーティングを導入してみて起こることは、大きく分けて三つ。『現場で実施してくれない』『対話の質が上がってこない』『やること自体が目的になってしまう』。ほとんどが、これらのどれかに当てはまります」
ビジネスコーチ株式会社 クラウド営業グループ 部長 栄木憲太郎氏
では、1on1が浸透しない原因とは何か。これも三つに分類できる。
(1)そもそも上司が1on1を実施することに納得していない
部下は上司に指示されたことをやればいいと考える上司は、なぜわざわざ時間を割いてまで部下の話を聞かないといけないのかを理解できない。
(2)1on1ミーティングのための時間を捻出できない
頭ではわかっているが、上司も部下も目の前の仕事が多すぎて忙しい。そのため、対話の時間がなかなかつくれない。栄木氏によれば、このケースがもっとも多いという。
(3)やってみたものの、この時間にあまり意味を感じられない
「部下が本音で話してくれない」「部下の課題を解決できない」など、上司側に1on1ミーティングに必要なスキルがないため、かえって悩みが増えてしまうケース。課題解決どころか課題が増えてしまうため、結果的に「この時間に意味はあるのか」となってしまう。
「まとめると1on1浸透がうまくいかない企業の特徴は、『上司のマインドセットが不十分』『上司のスキルセットが不十分』『上司へのサポートが不十分』の三点に集約されます。これからお話しいただく東京ベイ有明ワシントンホテルの事例では、この三点を克服したことで1on1ミーティングが定着し、大きな成果につながりました」
1on1ミーティングを現場に浸透させるために【人事部視点から】業・マネジメント変革に有効なのか
事例紹介は、「人事部視点」「現場視点」の双方向から、立体的に行われた。まずは、東京ベイ有明ワシントンホテルの運営主体である藤田観光・人事部の橋本氏が、導入の背景、人事としての取り組みについて語った。
藤田観光は、ホテル椿山荘東京、箱根小涌園、大阪の太閤園などで知られる観光業界の名門だ。同社が1on1導入に取り組んだ背景には、経営トップから示された「日常のコミュニケーションを通じた施策意識の共有」「スピード感を持って指導・修正ができるマネジメント体制の構築」という課題意識が大きかったという。すでに年2回実施する「評価対話」などの制度はあったが、より効果のある施策として注目したのが1on1ミーティングだった。
「1on1ミーティングが注目されていることは知っていましたが、改めてそれを実感したのが昨年の『HRカンファレンス』でした。講演後、書籍コーナーで参考となる書籍を購入し、持ち帰ってメンバーと一緒に勉強しました。最初は1回30分の時間をとるだけなら簡単だと思っていたのですが、研究するうちに、上司の対話スキルが部下のモチベーションを大きく左右することがわかり、生半可な理解での全社展開はリスクがあると考えるようになりました」
そこで橋本氏らは、以下の方針を決めた。
(1)まずはパイロット事業所で導入し、ノウハウを蓄積してから全社展開する
(2)できるだけ早期に導入を実現し、また絶対に失敗しないために外部のコンサルティング会社と共同でプロジェクトを進める
このパイロット事業所が東京ベイ有明ワシントンホテルであり、サポート役として選定したのが1on1ミーティング導入に経験豊富なビジネスコーチ社だった。
藤田観光株式会社 人事グループ 部長 採用・教育担当 橋本香織氏
「有明を選んだのは、総支配人が交替するタイミングで、新任の総支配人と二人三脚で取り組めると考えたこと。同時に、当時の有明には従業員のモチベーション停滞による離職率の高さという課題があり、なんとか解決したいという思いもありました。課題のはっきりした事業所が1on1で変われば、その後の施策もやりやすくなるという判断もありました」
離職について現場にヒアリングしたところ、上司・部下ともに頑張って仕事に取り組んでいるにもかかわらず、それぞれが空回りして、信頼関係が希薄になっていることがうかがえた。意思疎通に課題を抱える事業所だけに、1on1ミーティングの効果をはかるには、ある意味でもっとも適していたともいえるだろう。
ビジネスコーチ社・栄木氏らのサポートを受けながら、有明での導入プロジェクトは2018年11月にスタート。ルールは2週間に1回15分から。制度が動き出してからも、橋本氏や栄木氏はしばしばホテルを訪れ、きめ細かく問題点の修正にあたった。
その際、1on1の浸透状況把握に役立ったのが、ビジネスコーチ社が提供したHRテクノロジー「クラウドコーチング」のアンケート機能だ。実際、有明でも「普段からコミュニケーションはとっているのに、わざわざ時間を割く必要があるのか」といった理解不足からくる、失敗につながりかねない状況も発生していたという。アンケートでそういった問題点が見つかると、定期的に行われるアドバイザリの機会を利用して、栄木氏らから的確なアドバイスを受け、徐々に1on1ミーティングへの理解を深めていった。
「経営トップを動かすための努力もしました。社長と現場の状況を密に共有することで、トップ自らが現場に赴き、浸透を後押ししてくれました。人事としても絶対に失敗できない、という覚悟で進めていったプロジェクトでした」
導入開始から一年。橋本氏は「まだ道半ば」と言いつつも、上司・部下ともに変化しつつあることを実感しているという。それは単にコミュニケーションが密になったということだけではない。
「部下の話を聞く機会が増えることで、上司はより多くの情報を得ることができます。また、部下も日常業務の中で感じたことを、上司にいかに伝えようかと考え、まとめ、表現することを工夫するようになってきました。つまり、1on1がひとつのトレーニングの場となり、本質的な組織の力を伸ばす取り組みになってきています。当初の目的であった『強い組織の実現』に近づきつつあると感じています」
1on1ミーティングを現場に浸透させるために【現場視点から】
続いて、東京ベイ有明ワシントンホテル 総支配人である櫻井氏が登壇。最初に示したのは、同ホテルの離職者数の推移グラフだ。櫻井氏の着任前には、多い月だと3~4名が退職していた。従業員数約110名の事業所としては、かなり深刻だ。しかも、その多くは、これからの主力としての期待がかかる、入社3~5年目の若手だった。まさに1on1ミーティングの導入は待ったなしの状態だったといえる。
「しかし、最初は多くの管理職がその必要性を理解できませんでした。非常に忙しい中で、わずか15分話すことにどれだけの意味があるのかという反応でした」
東京ベイ有明ワシントンホテル 総支配人 櫻井浩幸氏
実際に行ってみると、比較的熱心に取り組む管理職と、やっても評価対象にならないのならやらないという管理職に二極化した。また、そもそもコミュニケーションが希薄だったため、上司に対して苦手意識を持つ部下もいたという。
「そういった当初の状況に対して、人事が定期的に現場に来て状況を把握し、上司の対話スキルもきちんと見た上で、現実に即した対応策に落とし込んでくれたのが大きかったと思います。ホテルは24時間体制で動く現場です。人事が制度導入の通達だけして、あとは現場におまかせでは、おそらくそのままになっていたでしょう」
そうした人事のサポートを受け、現場サイドでも櫻井氏を中心にさまざまな工夫を行った。
「儀式的に行うのは面倒と感じることもありますが、逆もまた真なりの発想で、まず形から入ってもいいと考えることにしました。しっかりした対話でなくても、最初は日常会話の延長でいい。その上で管理職に対しては、われわれも粘り強くかかわって意識づけをしていきました。職場内で1on1が一種の流行語になるくらい言い続けましたし、『やらないとまずいな』という空気を、パワハラにならない範囲で意図的につくっていくこともありました。もちろん、1on1に積極的な人はきちんと評価するようにしていきました」
導入の効果は、はっきりと目に見える形であらわれた。
「離職率が劇的に改善しました。今年の4月以降は一人の退職者も出ていません。また、現状で辞めたいというスタッフもゼロです。ただ、1on1で達成したい目標の全体像からいえばまだ途上です。1on1の基本は部下の意見を聞くこと、つまり傾聴。これまでの目標設定対話などとは逆の流れで、下から上に流れるコミュニケーションです。それによって組織力を強化し、業績向上や顧客満足に反映させていくことが最終的な狙いです」
パネルセッション:1年で成果を出せた理由とは
【テーマ1】 人事は現場に対して具体的にどんなサポートを行ったのか
橋本:ビジネスコーチ社のアドバイザリサービスを利用して、何度も一緒に現場に行きました。そこでのヒアリングをもとに、サポート内容を決定。まず管理職に対しては、導入研修だけでなく、定期的にフォローアップ研修を重ねて、対話スキルを身につけてもらいました。また、アンケートに活用した「クラウドコーチング」も効果的でした。行動定着を支援するなどの機能がたくさんあり、若手だけでなく上の世代にも興味を持って利用してもらえました。
栄木:「クラウドコーチング」は「HRアワード2019」優秀賞を受賞した、弊社開発のHRテクノロジーです。アンケートの特徴は、上司の自己評価と部下の上司に対する評価をスコアで対比できること。この結果から課題を認識したり今後に生かしたりできます。
櫻井:アンケート結果は現場の生の声がダイレクトに出てきます。厳しい内容もありますが、生の声ですから、それがわかるのは基本的によいことだと思います。アンケート以外にも、お互いに『いいね』をつけられ、気軽なコミュニケーションツールとして1on1を楽しく進める手段になりました。
【テーマ2】 わずか1年でこれだけの成果が出た理由は何か
橋本:1on1ミーティングやHRテクノロジーの活用は、時代にあった取り組みだったと感じています。私も知らず知らずのうちに、若手とのコミュニケーションの断絶があったのかもしれません。弊社には外国人スタッフもいますし、多様性のある組織なので、より個人に向けてきめ細かくアレンジされた仕組みをつくっていくことが大切です。
栄木:特にアンケート実施が大きかったと思います。上司が部下にどう思われているのかがわかるだけでなく、人事や本社も現場の状況を正確につかめます。その上で現場にヒアリングすることで、さらに適切な対応ができるという好循環が生まれました。
【テーマ3】 これから1on1ミーティングを導入したい企業へのアドバイス
櫻井:人事が現場まかせにしないことだと思います。弊社の場合も「また来るの?」というくらい人事が現場に足を運んでくれました。やがて徐々に抵抗感もなくなり、アドバイザリやフォローアップ研修などを的確に行ってくれて、本当にありがたく感じました。
橋本:今の裏返しですが、現場は人事の本気度を見ています。これまで声をあげられなかった現場のスタッフが、「1on1のおかけで意見が言えるようになった」と言ってくれたときの顔は忘れられません。その顔を思い出しては、下から声をあげられる組織は間違いなく強くなる、そう信じて現場に行っては檄を飛ばし、本気を見せるようにしてきました。
最後に、参加者からの質問にパネラーが回答。「離職率低減以外に効果があがったことは何か」という質問に対して、下記のように回答し、セッションは終了した。
櫻井:1on1の基本は傾聴です。それによって現場で何が起きているのか、その傾向をつかめるようになってきました。さらなる風土改善、業務改善に役立つと思います。
栄木:成果が出ている企業に共通しているのは、上司の指示が通りやすくなったこと。コミュニケーションの改善で組織やチームが動くようになる効果は大きいと思います。